在宅医療の改革を世界へ、価値観が重なるゼストとミダスの成長戦略とは

在宅医療の改革を世界へ、価値観が重なるゼストとミダスの成長戦略とは

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KEPPLE編集部

いつの時代も、新しいビジネスを創り出す起業家と、その志に共感し支援する投資家の存在により、新しい産業が生み出されてきた。両者がともに歩むことになった背景には、どのような思いがあるのだろうか。本企画では対談形式で、出会いから出資に至るまで、そして共に描く今後の展望について、深掘りしていく。

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2022年8月、在宅医療向けのクラウドサービス「ZEST」を運営する株式会社ゼストが、プレシリーズAラウンドにて株式会社ミダスキャピタルをリード投資家とした第三者割当増資による7.6億円の資金調達をした。(資金調達発表時の取材記事はこちら

「ZEST」は、在宅医療業界の人材不足を解決するために、在宅医療の訪問スケジュール調整を自動化するクラウドサービスだ。代表取締役会長の伊藤由起子氏は日本の女性プログラマー第一号としても知られる。ソフトウェア開発を推進する中で気づいたこの業界の課題解決を目指し、「ZEST」の製品化に踏み切った。

一方の株式会社ミダスキャピタルは、エアトリの創業者としても知られる代表パートナーの吉村英毅氏が、2017年に創業。起業家や実業家が多く参画し、長期にわたって投資先企業を支援するプライベート・エクイティ・ファンドを運用している。

今回は、ゼスト 代表取締役会長 伊藤由起子氏 ・ミダスキャピタル 代表パートナー  吉村英毅氏に詳しく話を聞いた。

第一印象で信頼関係を築いていけると感じた

―― お二人はいつ頃どのように出会われたのでしょうか?

伊藤氏:最初に吉村さんにお会いしたのは、2022年4月でした。増資を検討している中で、私たちのサービスをこれから世界中に届けていくためには、優秀な経営者の方に参画していただく必要があると考えていました。そこで、あるエンジェル投資家の方にご紹介を受けたのが吉村さんでした。

―― お互いの印象はどうでしたか?

伊藤氏:お会いする前は、正直ちょっと不安に思っていました。ミダスキャピタルは、過半数の株を取得するマジョリティ出資をして、経営をサポートしていく方針を取られています。私たちはビジネス的にはまだ何もしていない赤ちゃんのような状態でした。筆頭株主として入っていただくと、私たちのミッション・ビジョン・バリューが実現できなくなるのではないか、という懸念がありました。

ところが、吉村さんに実際にお会いしてみると、とても真摯でどんな質問にも丁寧に一生懸命答えていただいて、非常に信頼できる方だという印象に変わりました。そこから、今後どのような問題が起きても、一緒に話し合ってきちんと解決していけると感じました。

吉村氏:伊藤さんは非常にパワフルで魅力的な方という印象でした。日本で第一号の女性プログラマーとして、ご自身のポリシーを持ちながら35年も会社経営をされていて。今のビジネスモデルを固められて、さらに頑張っていこうという姿勢も、素敵だと思いました。

「相互支援と感謝」という価値観の共有

―― 4月の出会い後、8月には資金調達の発表をされていますね。どのような理由から、タッグを組むことになったのですか?

伊藤氏:実は、最初にお会いした際は、その時に必要な資金はすでに集め終わっていたタイミングでした。そのため、半分以上の株式を取得いただいて一緒にビジネスをしていく理由について冷静に考えることができました。増資受け入れを決断した理由は三つあります。

まず一つ目は、ミダスキャピタルの支援内容です。私は技術者なので、技術面から社会に貢献することができます。一方、組織を大きくしたり仕組みを作ったりするのは自分の本分ではないんだろうなと考えていました。本当に困っている人たちがたくさんいることを知り、私たちがたどり着いたこのサービスを世界中に届けないといけないと考えています。影響力やスピードをあげて実現するためには、優秀な経営のプロのサポートを受けたいと考えていて、ミダスキャピタルならその点で力を貸していただけると思いました。

二つ目に、ゼストではそれぞれが自分の得意なことでまわりに還元するという「相互支援と感謝」を大事にしてきました。実はミダスキャピタルがサポートされている投資先企業の経営陣のみなさんが、この価値観を当たり前に持ち実行されていたんです。色々な企業の方とお会いしてきましたが、初めて同じ文化をお持ちだと感じることができました。

三つ目に、上場した後も長期的に一緒に走っていただける点です。今取り組んでいる在宅医療の訪問スケジュール調整サービスは私たちの最終目標ではなく、今後は海外進出や他業界への水平展開も考えています。これから事業を拡大していく中で、長い目で見て投資してくださるというのは重要なポイントでした。

吉村氏:私はゼストさんのお話を伺って、すぐに面白い投資機会だなと思いました。その理由が、私も三点あります。

まずは、取り組まれている業界とビジネスモデルです。訪問診療や介護は、これからもずっと需要が高まっていきます。そして、自動スケジュール調整という一見地味に見えるかもしれないツールは、明らかに業界の大きなペインを解決するサービスです。全般的なレセプトサービスのようなものはいろいろと出ていますが、スケジュール調整に関しては、意外と競合プロダクトが存在していないのです。非常に伸びているマーケットの中で、しっかりとペインを解決する、競合があまり見当たらないプロダクトを持たれているところが一点目です。

二つ目に、改善する余地がたくさんあるのではないかと思った点です。例えば営業やファイナンス、マーケティングの部分など、まだすごく粗削りであったり、場合によっては手つかずの分野もあるのではないかと。そういうところは私たちが出資させていただいた後、いろいろな人材を紹介したり、マーケティング支援をしたりしていくことで、大きくお役に立てるのではないかと考えました。

三点目はまさに第一印象にも挙げました、伊藤さんのお人柄ですね。

サービス紹介資料

―― 9月には新しい代表取締役社長の一色氏を迎えられ、伊藤さんは代表取締役会長に就任されました。その人事もミダスキャピタルのサポートがあったのでしょうか?

吉村氏:一色さんも私たちが紹介させていただきました。ミダスキャピタルは、基本的に何でもやるという支援体制で、期限を設けずほぼ半永久的にサポートしていくコンセプトです。私たちのコアコンピタンスは中核の経営人材のソーシングで、それも全てリファラルに特化した形で行っています。伊藤さんには引き続き、経営の意思決定に携わっていただきます。これまでお一人で引っ張ってこられました。今後は強力なエンジンが二つになって進めてくださると考えています。

在宅医療の景色を変える、その先を目指して

―― 「ZEST」で目指す、業界の課題とは?

伊藤氏:日本は今、目と鼻の先に確実に爆発する「2025年問題」という時限爆弾を抱え、介護士・看護師が32万人足りなくなると言われています。私たちのサービスを使っていただくと、在宅医療の事業者は倍以上の訪問件数を実現でき、この問題を解決できると考えています。

そして、来年にはさらに新しいプラットフォームを発表する予定です。数年かかるかなと思っていましたが、ミダスキャピタルにパートナーになっていただいたおかげで、かなり前倒しすることができる見込みです。これをリリースすれば、本当に日本の在宅医療の景色が変わるんじゃないかなと考えています。

―― 今後、ゼストに期待していることは?

吉村氏:これは投資させていただく時から考えていたのですが、これから三段階の成功があると思っています。

「ZEST」は素晴らしいプロダクトですが、現在の導入数自体はまだ本当に少ない状態です。まずは、これを早急に引き上げていくことです。導入数が数千となり、MRRが1億を超えていく地点までいち早く持っていくというのが、一つ目の成功だと思います。

二つ目に、先ほど伊藤会長が触れられたように、このプラットフォームを意味のある形で広げていくこと。三つ目にこれらを海外や他業種へ展開していくこと。その過程でおそらくIPOもできると考えています。しかし、もちろんそれがゴールではなく、上場後に時価総額数千億というさらに大きな企業に成長していけると期待しています。

―― 今後の長期的な展望について教えてください。

伊藤氏:今の業界だけでなく、例えば他の人ではできないある特殊な技術をお持ちの方が、その技術だけを、地域も国も超え、ボーダーレスに届けられるような世界を作っていきたいのです。20年30年という長い時間がかかりそうですが、ぜひ実現したいですね。

吉村氏:ミダスキャピタルとして、ゼストの今後の終わりなき成長に対して、これからも半永久的に支援を継続していきたいと考えています。伊藤さんのビジョンと私たちからの経営支援、これを併せ持って大きな夢を実現できるように、ともに頑張っていこうと思います。

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伊藤由起子氏
大学在学中に日本初の女性プログラマーとなる。25歳で起業。ソフトバンクの日次決算や訪問スケジュール自動化システムなど多数開発。2015年、500 Startupsの日本法人第一号案件として第三者割当増資。2022年には、株式会社ミダスキャピタルなどから7.6億円を調達し、シリコンバレーでも反響が大きかった在宅医療業界向けプロダクトZESTの開発・販売強化を推進。同年、代表取締役会長に就任。

吉村英毅氏
2003年大学在学中に株式会社Valcomを創業。2007年株式会社エアトリを共同創業し代表取締役社長に就任(株式会社Valcomを吸収合併) 。 2016年株式会社エアトリを東証マザーズ上場、2017年東証1部上場。
2017年株式会社ミダスキャピタルを創業し、後に代表取締役社長に就任。同年ミダスキャピタル第1号案件として株式会社BuySell Technologiesを買収。後に取締役会長に就任し、2019年東証マザーズ上場。東京大学経済学部経営学科卒

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