映像クリエイターを支援する株式会社Vookが、日本テレビホールディングスを引受先とした第三者割当増資による4億円の資金調達を実施したことを発表した。
今回の資金調達により、クリエイター向けのイベントやスクール事業の新コース開発を強化し、既存事業の成長、新たな事業展開を目指す。
アマチュアからプロまでの映像クリエイター支援
Vookは、「映像クリエイターを無敵に。」をビジョンに掲げ、映像クリエイター向けの技術情報プラットフォームを中心とした複数事業を展開する。
同社が運営する「Vook」は、アマチュアからプロレベルまで幅広い映像クリエイターに向けた情報プラットフォームだ。動画編集技術紹介や機材レビュー、制作現場の実情など映像制作におけるさまざまな情報が掲載されている。
無料でも多くのコンテンツを閲覧できるほか、有料会員はプロのクリエイターが解説した映像制作のチュートリアル動画や同社が提供するウェビナーへの参加に加え、限定コンテンツの視聴を制限なく利用できる。2016年にサービスを開始して以降、2023年9月時点で月間アクティブユニークユーザー数は36万、月間PV数82万を誇る。
また、同社はプロレベルまで動画制作技術を学べる実践型スクール「Vook school 」を運営。主に、映像編集技術を解説するビデオグラファーコースとモーショングラフィックスコースがあり、学習コースにはクリエイターが監修した100以上の独自カリキュラムで構成されるほか、プロのクリエイターがメンターとして受講をサポートする。
また、映像制作の技術だけでなく、機材の選び方や制作にかかわる事務手続きなど、映像制作に仕事として取り組むうえで必要なスキルを学べる点が特徴だ。
映像制作に特化した人材紹介サービス「Vook キャリア」を運営しており、通常の転職希望者に加えて、Vook schoolの受講生の転職も支援している。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 岡本 俊太郎氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
映像制作の需要に応える環境が必要
―― これまで、映像制作業界にはどのような課題がありましたか?
岡本氏:現在、映像領域は成長市場だと言えます。スマートフォンの普及に伴い動画の視聴時間が伸び、また動画広告の市場も今後1兆円規模になると予測されています。
加えて、NetflixやTikTokといった動画プラットフォームの登場や技術の進展によって、映像制作の敷居が下がることで、さまざまな領域で動画が制作されるようになりました。企業でも、自社サービスの紹介映像や研修トレーニング動画など、社内外のコミュニケーションツールとして独自の動画制作を行う需要が高まっています。
その一方で、映像クリエイターの不足は大きな問題です。徒弟的な育成方法により体系的に映像制作を学びにくいことや、過酷な労働環境による人材流出が影響しています。アメリカでは、クリエイターにとって働きやすい環境が日本と比べて十分に整備されています。
映像制作の需要が増える中で、一昔前はテレビや映画、CM等の一部の層のみが職業として映像制作を行っていましたが、今後市場が拡大していくうえで、映像を作る人口を増やすことが非常に重要です。
―― アメリカの映像制作業界は日本と比べてどのような点が異なるのでしょうか?
日本と異なりアメリカでは、映像制作に携わる人は専門の学校に通うことが一般的です。どのような職種の人でも企画やプロデュース、撮影、照明、動画編集といった映像制作に関わる技術を網羅的かつ体系的に学ぶことで、役割を超えた理解を前提に映像制作を行います。一方で日本では、役割ごとに専門性が分かれており、映像制作に対する共通理解が不十分なこともあります。
また、アメリカではクリエイターの働く環境が重視されています。労働組合が強く、映像制作の規定がかなり整備されていることでクリエイターが保護されています。撮影時の食事の提供や夜間撮影時の報酬増額など、制作コストが増加する側面はありながらも、クリエイターが働きやすい環境を整えることで、世界中から優秀な人材が集まる要因となっています。
―― 創業のきっかけを教えてください。
学生時代から「学生CM甲子園」というCMコンテストを主宰するなど、学生団体を運営していた流れでそのまま起業に至っています。映像制作に魅力を感じたきっかけは、iPod touchのCMに、学生の制作した映像が起用されたことを知ったことです。イギリスの学生が趣味でCM風に自主制作し、YouTubeにアップロードされたiPod touchの映像が、そのままApple社の広告として起用されたんです。
学生でも素晴らしい映像が作れるんだと思ったことや、こうした映像の作り手を支援するような取り組みがしたいとの思いから、CMコンテストの運営を始めました。そして、この学生団体の経験や学生時代に経済産業省からリクルート動画の案件を頂いていたこともあって、2012年に起業しました。
当初は映像制作を中心に行っていましたが、1ヶ月ほどハリウッドで映像制作に携わる機会があり、その際にクリエイターのレベルや働く環境など、アメリカの制作現場の優れた実情を目の当たりにしました。
日本の制作現場に危機感を感じる中で、世界トップクラスのシェアを持つカメラ機材などの領域にはポテンシャルを感じました。クリエイターを支援するために、まずは海外の最新技術を翻訳して発信する技術情報メディアとしてVookを開始しました。
クリエイターの価値・地位の向上へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
今回の資金調達は経済的リターンに加え、社会的なインパクトを指標化して測定する、日本テレビが取り組む「インパクト投資」の1号案件として実施されました。クリエイター人材の育成や採用環境を整備し、映像クリエイターの価値や地位を向上させることで、映像が活用される社会に貢献する点に共感いただき、今回の調達が実現しました。
また、良いクリエイターを輩出することで番組やコンテンツ制作など、協業できる面は大いにあります。XR分野も重点領域として注目しており、XRコンテンツ制作に関する教育コースの開発に共に取り組んでいきます。
資金使途としては、既存事業のマーケティング強化や最新技術への投資に加え、人材採用に充当します。クリエイターのキャリアコンサルタントやスクール運営の人材、エンジニアを中心に組織を拡大していきます。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
クリエイター育成に関しては、日本のコンテンツ産業を盛り上げるために、国からの支援も加速しています。そうした背景もある中で当社は、教育事業を通じたCGやXRなどのデジタルクリエイター人材の育成に注力し、独自の指標を定期的に測定することで、社会的インパクトの創出に取り組みます。
また、企業による動画コンテンツ制作の内製化支援を強化する予定です。映像は、文字に比べて5000倍の情報量を持つと言われています。CMなどの制作は難しくても、労働生産性向上を目的に、社内の情報ツールとして動画を活用する企業は増えていくはずです。SNS動画や採用向け映像などを自社で製作する企業が増えると、クリエイターにとっては、映像業界以外にも活躍の幅が広がります。
中長期的な目標として、アジア圏での事業展開を模索しています。経済発展に伴い映像コンテンツも伸びている中で、クリエイティブ人材の需要も高まります。映像機材に関する最新情報の発信を強みに、Vookを広げていきます。
今後は、これまで以上に映像を活用せざるを得ない時代になっていきます。当社自身も、事業や構想を映像化して見せることで資金調達に繋がりました。多くの企業の映像活用を後押しできるよう、支援していきたいと思います。
株式会社Vook
株式会社Vookは、映像クリエイターの学び・仕事・繋がりをサポートする企業。 同社は、映像制作Tipsサイト『Vook』、映像制作者に特化した人材紹介サービス『Vook キャリア』、映像スクール『Vook School』を運営。 『Vook』は、映像制作における知識などをまとめた記事や映像制作を体系的に学べるチュートリアル動画などを配信する、映像クリエイター向けサイト。 同社は今後、メタバースをはじめとした新技術の映像制作に対応するサービスを展開し、『Vook』の持つメディア機能を核として時代に即したクリエイターを生み育てるエコシステムを構築予定。
代表者名 | 岡本俊太郎 |
設立日 | 2012年1月17日 |
住所 | 東京都渋谷区宇田川町14-13 |