株式会社イロリ

リアルなものづくりに携わる職人・クリエイター向けのSNS「Crafty」を運営するイロリが、シードラウンドにて約2億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達先は、千葉道場ファンド、ココナラスキルパートナーズ、ユナイテッド、GxPartners、天神屋の5社。
Craftyは、生産者や料理人、工芸職人など職人・クリエイター向けのSNSとして2024年10月にローンチ。「クリエイター版のLinkedIn」として、農園や工房などの現場で活躍する人材がポートフォリオを公開し、Web上でつながりをつくれる場を提供する。
今回の資金調達の発表と併せて「募集機能」がリリースされ、ユーザーは取引先開拓や人材採用、プロジェクトの参加者募集、スペースの貸し借りなどを目的とする投稿で、応募者を集められるようになった。
基本的な機能は無料で提供しつつ、投稿作成や人材マッチングに関して運営側のサポートが付く企業向けの有料プランも展開を予定している。各ユーザーには投稿や応募の数や内容に応じたスコアが付与され、高度なスキルを持つユーザーほどつながりを獲得しやすくなる仕組みも設けている。
代表取締役の福崎 康平氏は、コーチと生徒のマッチングサービス「サイタ」を運営していたコーチ・ユナイテッドの代表を経て、2020年、29歳でクックパッドのJapan CEOに就任。退任後、以前から構想していたCraftyを立ち上げた。福崎氏に、サービス開発の背景や今後のビジョンについて詳しく話を伺った。
手軽にポートフォリオ作成できるサービスで、人材の流動性に貢献したい
――Craftyの開発に至った背景は。
福崎氏:ITの世界ではここ数十年、さまざまなインターネットサービスが生まれ、App Storeのようなマーケットもできたことで、エンジニアやデザイナーのキャリアのあり方が大きく変わりました。
従来は大手のSIerなどに所属して開発プロジェクトに携わるのが一般的でしたが、個人で手がけられる仕事が増えたおかげで、フリーランスの立場で活動する人も珍しくなくなり、転職へのハードルも下がっています。こうした流動性の高い働き方を支えているのが、エンジニアであればGitHub、デザイナーであればforiioのような、ユーザーがポートフォリオ代わりに使えるサービスです。
一方、製造業の世界でも、個人で夢のあるビジネスに挑戦できる環境は整ってきました。地方の小さなワイナリーや農園などがSNSなどを活用し、直接販路を開拓できるようになり、開業に必要な機材や設備も比較的手軽に調達できるようになっています。従来は徒弟制度や家族経営など、固定化された組織で働いていた職人の流動性が一気に高まっていくでしょう。実力ある人はどんどん乞われて、あるいは自ら動いて、新しい環境で力を発揮する時代になるはずです。

ただ、製造業界の職人やクリエイターには、これまで手軽にポートフォリオを作成し、互いにつながりをつくっていける場が存在しませんでした。この機能をCraftyが担うことで、職人・クリエイター人材の流動化を支援したいと考えています。
――昨年10月のローンチから4カ月経ちました。ユーザーからの反響は。
まだ使える機能も限られた段階でのローンチでしたが、期待の声を多数いただいています。Craftyユーザーが集まるイベント開催などにも取り組んできた中で、特に強く感じられるのは、多くの人が既存の流通システムに課題感を持っていることです。
例えば野菜や果物は、JAでもECショップでも、大きさがそろい、形の整ったものしか取り扱ってもらえませんが、味や食感にこだわったつくり方を追求していくと、規格に合わない物の割合が増えてしまうこともあります。商品と併せて、生産の過程やつくり手の思いを手軽に共有できる場があれば、そうしたこだわりの品も消費者に届けられるはず――そんな意見をさまざまな方からいただいてきました。

ECの世界ではすでにAmazonや楽天のようなサービスが覇権を築いていますが、そうした土俵に乗らない、「規格化できない価値」を発信できる場はまだ存在しません。これにはこだわりの農産物や加工品だけでなく、バリスタや寿司職人のスキルのような無形の価値も含まれます。また、「このカフェのためにつくる食器」「このレストランのためにつくる珍しい野菜」のように、個人対個人で見積もりをしてものをつくるオーダーメイドEC的な領域は、まだ既存のプラットフォームでは対応しきれていません。
Craftyは、こうした領域にSNSの力を持ち込もうとしています。従来のプラットフォーム型サービスとは異なり、取引のマージンを取るのではなく、商品やスキルの魅力を広く伝える「場」そのものに価値付けする点でも、ユニークなチャレンジです。ここから職人・クリエイター界のスタープレイヤーを生み出していけるよう、長い目でコミュニティを育てていきます。

「メジャーリーガーくらい稼げる職人」が続々生まれる未来へ
――資金調達と併せ、募集機能をリリースされました。今後の注力ポイントは。
プロダクト開発面では、スコアリング機能の拡充を加速します。現状はジャンルに関わらずスコアが溜まる仕組みですが、将来的には「コーヒー」「建築」といったジャンル別にスコアが表示され、「この焙煎機を使える日本一のバリスタ」や「この地域で一番評価の高い建築士」を探しやすくする想定です。
コミュニティ強化の面では、展示会や競技大会などリアルなコミュニケーションの場に、Craftyをいかに入り込ませていけるかが鍵になります。展示会参加者が全員Craftyのアカウントを持っていて、その場で商談した後はCraftyでやり取りを続ける。バリスタの競技会で優勝した人のレシピがCraftyで共有される。そんな形でユーザーとの接点を増やしていきたいと思います。
――今後の展望について教えてください。
職人・クリエイター人材の活躍の場を広げるツールとして、国内で一定の実績をつくった後は、海外に飛び出したい人の支援にも乗り出すつもりです。今、日本の寿司職人の中には、海外で高額な年収を得ている人もいます。多くの人がそうした機会を得られるよう、サポートしたいと考えています。
日本の職人・クリエイターには、世界の人が驚くレベルの技術を持った人がたくさんいます。環境さえ整えば、例えば「メジャーリーガーくらい稼げるパン職人」が続々生まれても不思議はありません。職人・クリエイターに憧れる子どもが増え、日本中のものづくり現場が活気を取り戻していけるよう、縁の下の力持ちの役割を担っていきます。
クリエイティブ人材一人ひとりの経験から得られた情報データベースには、AIでは決してつくれない普遍的な価値があり、将来的にはAIとの相性もよいと私は考えています。クックパッドのように長く価値を生み出し続けるプラットフォームを目指し、ファン層を広げていきます。
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