関連記事
“最後のピースはデータ活用” Sotasが10億円調達、化学産業の情報基盤構築進める


Sotas株式会社は、化学産業に特化した情報基盤を開発するスタートアップだ。化学物質の法規制調査などを支援する「Sotas化学調査」と、化学品の情報を扱う「Sotasデータベース」を提供している。2026年2月にはシリーズAラウンドの1stクローズで10億円を調達した。
2026年8月には、福山太郎氏が率いるRice Capitalから資金調達を実施した。福山氏は、米国でSaaS企業Fondを創業し、Y Combinatorへの参加や事業売却を経験した人物だ。現在はRice Capitalの代表パートナーとして、日本と米国のスタートアップに投資している。
福山氏はSotasへの投資を「1回の打ち合わせで決めた」と振り返る。なぜ、これほど早く投資判断に至ったのか。
Sotas代表取締役社長の吉元裕樹氏と、Rice Capital代表パートナーの福山太郎氏に、日本の化学産業に見いだした可能性、化学品マーケットプレイス「Sotas ChemMart」の構想、元起業家ならではの支援のあり方について聞いた。
──福山さんから見て、Sotasの最も大きな魅力はどこにありますか。
福山氏: 大きく3つです。市場、経済産業省が進める化学産業向けの情報基盤構想「CMP」への参画、そして吉元さんの魅力です。
化学産業は、日本企業が強みを持ち、日本発で世界を狙える数少ない領域の一つだと考えています。
また、Sotasは、国が進める化学物質情報の共有基盤「CMP」に企業をつなぐアプリケーションの担い手の一社として、NEDOの実証事業に採択されています。個別企業へのSaaS提供にとどまらず、業界全体の情報流通に関われる点にも可能性を感じました。
最大の理由は吉元さんです。初回の面談で、私自身それまで詳しくなかった化学産業について、非常に解像度の高い説明を受けました。事業の成長も、日米でさまざまなSaaS企業を見てきた中でトップクラスであると感じました。
面談を終えて会議室を出た直後、既存株主へ電話し、投資枠を譲っていただけないか相談しました。それほど早い段階で投資したいと思いました。
──AI時代に、化学産業を評価する理由を教えてください。
福山氏:AIによってソフトウェアの開発コストが下がるほど、業界を問わず利用できるホリゾンタルなプロダクトは世界中の競合と競うことになります。だからこそ勝負の軸は、特定の業界に深く入り込むバーティカルな領域へ移ると考えています。そして、バーティカルで勝つには「どの業界を選ぶか」が決定的に重要です。
私が重視しているのは、日本がもともと強く、国内でリーダーになった先に世界を狙える産業かどうかです。化学産業は専門性が深く、市場規模も大きい。Sotasは業界への深い知見に加え、顧客からの評価や顧客獲得実績も積み上がっています。AIによってプロダクト開発そのものの差が縮まりやすくなるほど、業界理解や顧客基盤の価値は高まると考えています。
──国内で築いた事業基盤は、海外展開にもつながるのでしょうか。
福山氏:つながると考えています。化学産業では、日本企業の販売先や取引先がすでに海外へ広がっています。日本企業がSotasを利用すれば、サプライチェーンを通じて海外企業との接点も生まれます。
さらにSotasには、利用企業から取引先へネットワークが広がりやすい構造があります。日本で築いた顧客基盤そのものを、海外展開の足掛かりにできる点は大きな強みと見ています。
──海外展開のタイムラインをどのように考えていますか。
吉元氏: 早ければ2027年にも進出したいと考えています。
化学産業では中国の存在感が非常に大きい一方、中国が特に強いのは、大規模なプラントで大量生産する汎用化学品です。半導体材料など、特定の用途や機能に特化したスペシャリティケミカルでは、日本企業が強みを持つ領域があります。
まずは、日本企業の商流を生かしやすい東南アジアやインド、韓国、台湾などアジア圏を有力な市場として見ています。アメリカも選択肢の一つです。
──現在開発しているSotas ChemMartには、どのような特徴がありますか。
吉元氏:大きく2つあります。
一つ目は、既存プロダクトと連携できる点です。
ChemMartは、化学品の検索から比較、サンプル取得、購入までをつなぐマーケットプレイスです。ただ、化学品は一般的な商材と異なり、成分や法規制、取り扱い方法まで確認する必要があります。化学品には揮発性を持つものや、人体に影響を及ぼす可能性があるものもあるためです。つまり、売り手と買い手をオンラインでつなぎ、商品を配送すれば完結するマーケットプレイスにはできません。
私たちはすでに、SDS(安全データシート)などをもとに法規制調査を支援するSotas化学調査を提供しています。ChemMartと連携させることで、化学品を探して購入するだけでなく、取引に必要な法規制の確認まで一気通貫で支援できます。蓄積してきたデータや既存プロダクトを、実際の商流につなげられる点が強みです。

二つ目は、商社と連携する前提で設計していることです。
日本の化学産業で事業を展開するうえで、商社の存在は大きな強みになると考えています。日本の化学産業では、物流、在庫管理、価格交渉、与信といった機能を商社が担ってきました。いずれも重い機能で、スタートアップがすべてを抱えるのは現実的ではありません。
だからこそSotasは、データとソフトウェア、そしてデジタル上の顧客接点に集中します。商社の機能とSotasのソフトウェアを組み合わせ、取引全体をデジタル化する。これがChemMartの基本的な考え方です。
商社が関与した取引がChemMartを通じて生まれた場合には、商社側にも利益を還元する。既存プレイヤーにも参加する合理性を持たせる設計です。

──こうした仕組みが、どのような価値を生むのでしょうか。
吉元氏:こうした仕組みが、「データとマーケットの対話」を生むと考えています。
化学産業はサプライチェーンが長く、川上の素材メーカーが、自社製品の最終用途や市場ニーズを十分に把握できていないケースがあります。
ChemMartでバイヤーと接点を持てれば、「どのような素材を求めているのか」「どの用途で使いたいのか」といった一次情報を取得できます。一方、Sotas化学調査やSotasデータベースには、企業が持つ製品や技術に関する情報が蓄積されています。市場側のニーズと企業側のデータをつなぎ、より精度の高いマッチングにつなげることができます。
これが「データとマーケットの対話」です。ChemMartは単に取引量を増やすためのマーケットプレイスではありません。取引から市場のニーズを捉え、情報をデータと組み合わせてサプライヤーへ戻す。データと商流の循環を生み出すことで、化学産業にマーケットインの発想を広げたいと考えています。
──福山さんとは、どのようなお話をされることが多いのでしょうか。
吉元氏:初回の面談から、事業に深く踏み込んだ質問が続きました。実際にソフトウェア事業を経営した経験がなければ出てこないような質問でした。
福山さんはシリコンバレーでソフトウェア企業を経営していたので、「アメリカならどう考えるか」という視点も得られます。一方的にアドバイスを受けるのではなく、質問を受けて考え、答えると、さらに次の問いが返ってくる。対話を重ねる中で、自分自身の視座が引き上げられている感覚があります。
──一番印象に残っている会話はありますか。
吉元氏:最も印象に残っているのは、福山さんから受けた「もしSotasが大成功したとき、化学業界はどう変わっているのか」という問いです。
最初は抽象的な回答しかできませんでした。それ以来、本気で考えるようになりました。今ならこう答えます。Sotasが大きく成長したとき、日本の産業をけん引する存在の一つが化学産業である、と。会社単体ではなく、産業全体から逆算して自社の役割を捉えるきっかけになりました。
産業の未来を問う大きな質問と、契約期間のような実務の細部。その両方に踏み込む点が、福山さんとの対話の特徴だと感じています。
──起業家へのハンズオン支援で意識していることはありますか。
福山氏:投資家の都合で時間を使ってもらうことはせず、重要な意思決定の場面で価値を返すことを重視しています。
起業家にとって、時間は最も限られた資源の一つです。私から定例会議を求めることは、ほとんどありません。月に1回、売上高の伸び、ハイライトとローライト、銀行残高などを簡単なテンプレートで共有してもらえば、事業の状況は把握できます。
また、提供価値として最も意識しているのは、起業家の目線を引き上げることです。
事業に最も詳しいのは、間違いなく起業家です。投資家がそれ以上に事業を理解し、答えを教えられるとは思っていません。一方、投資家は多くの会社の成功と失敗を見ています。その経験から、「何を問えば、もう一段高い目線に立てるのか」を考え、問いを投げかけることはできます。
経営では、3カ月や半年に1度、大きな意思決定を迫られる場面があります。そこで一つでも良い判断につながる問いや助言を渡す。長い時間軸で見れば、その積み重ねが大きな差になると思っています。
良い質問ができることは、良い投資家の条件の一つだと考えています。
──「良い投資家」のロールモデルはいらっしゃいますか。
福山氏:投資家としてのロールモデルの一人は、Y Combinatorを共同創業したポール・グレアムです。
YCで受けたのは、非常にシンプルな質問でした。「今週は何%成長したのか」「なぜもっと速く成長していないのか」「そのために何をしているのか」。突き詰めれば、自社にとって最も重要なことを理解し、限られた時間をそこへ使えているかを問う質問です。
Sotasに対しても、吉元さんご自身が考え続けるための問いを投げかけたいと思っています。「Sotasが大成功したとき、化学産業はどう変わっているのか」という問いへの答えも、3年後には今とは全く違うものになっているはずです。その変化を見ながら、次の成長につながる問いを投げ続けることが、投資家としての私の役割だと考えています。
スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ。
1週間分の資金調達情報を毎週お届けします。
※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします
※配信はいつでも停止できます