家族信託「おやとこ」、高齢社会の新たな選択肢に

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KEPPLE編集部

家族信託の「おやとこ」を提供するトリニティ・テクノロジー株式会社がシリーズBラウンドにて、第三者割当増資と金融機関からの融資による総額18.1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。既存投資家を含め23社(うち金融機関系18社)が参加した。

今回の資金調達により人材採用の強化、地方銀行との連携による家族信託の全国への普及を目指す。

信頼できる家族に財産管理を託す

おやとこは、認知症による資産凍結を防ぐ家族信託サービスだ。

認知症によって意思能⼒を喪失すると、銀行預金の引き出しや不動産の売買ができなくなる。家族信託は、自分の財産の管理権限を家族など信頼できる第三者に渡し、自分に代わって財産を管理してもらうことで資産凍結を防ぐ法的制度だ。

家族信託の仕組み
資産管理は、同社が開発するアプリ上で行う。銀行とのAPI連携や、レシートの自動読み込み機能により、帳簿や報告書を自動で作成し、家族間で共有できる。受託者以外の家族も資産状況を確認することで、家族信託の運用ルールが順守されやすい点が特徴だ。

2023年12月時点の契約資産は約350億円。すでに18の金融機関、700社以上の事業者と提携して、国内7拠点を有する。今後も各地の地方銀行などとの提携により、日本全国への家族信託普及を目指す。

トリニティ・テクノロジーは他にも、頼れる家族がいない高齢者の緊急連絡先への就任や財産管理などを広く支援する「おひさぽ」や、相続手続きをサポートする「スマホde相続」も展開する。

同社は、2012年に司法書士法人として創業。2016年に家族信託事業を開始し、2020年にスタートアップとしてトリニティ・テクノロジーを設立、2021年におやとこをローンチした。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 磨 和寛氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

高齢社会で対策が必要な資産凍結

―― 家族信託が求められる背景を教えてください。

磨氏:日本が超高齢社会に向かう中、現在は約630万人の認知症患者がいます。2050年には1000万人を超えるとの予測です。この状況の中、認知症で意思能力を喪失し、銀行預金の引き出しや不動産の売買などができなくなってしまう資産凍結が大きな社会問題となっています。

資産凍結により生じる問題はさまざまです。介護施設への入居を目的とした自宅の売却や銀行預金の引き出し、相続対策ができなくなってしまうことなどが挙げられます。子は親のためであっても親の資産を活用できず、結果として子どもたちに負担がかかる場合があります。

こうした背景から、親が意思能力を喪失する前に、家族が親の資産を管理できるようにする家族信託が注目されています。

―― 成年後見制度や従来の家族信託に関する課題について教えてください。

成年後見制度とは、認知症などで判断能力に制約が生じた成年者の法的保護を目的とする法制度です。この制度を利用すれば、認知症になって凍結された資産を解除することはできますが、裁判所が任命した成年後見人の管理の下で行わなければなりません。

裁判所が資産を管理することに、抵抗感を抱く家族は少なくありません。家族であっても財産の自由な管理ができないことや、一度始めたら亡くなるまで中断できないという課題もあります。そのため、制度の利用率はわずか3.7%に留まっています。

資産凍結を未然に防ぎ、成年後見人に頼らずに済む手段が家族信託です。信託組成は専門家が個別に支援する一方で、組成後の管理は家族に任されています。家族には法的な規定に基づいた書類の作成を義務付けられており、負担も大きいのです。また、他の家族が気づかないうちに、受託者が親の資産を使い込んでしまうリスクもあります。従来の家族信託には、適切に信託を管理する難しさがありました。

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家族信託 × ITで三方良しの事業に

―― どのようなきっかけから、家族信託事業に注目したのでしょうか?

司法書士法人を設立して顧客を支援する中で、親の介護費用や入院費用をまかなうために親の土地を売却する相談を受けたことがきっかけです。土地売却は数ヶ月後の予定でしたが、すでに親の認知症が進行しており、実際の手続き時には意思能力を喪失している可能性がありました。

成年後見制度は、手続きが複雑で費用も高額です。そこで、何か他の仕組みで対応できないかと考えた際に浮かんだのが家族信託です。

当時はまだ、家族信託の事例は多くありませんでした。三日三晩寝ずに調べながら信託契約を作成したところ、目に涙を浮かべながら感謝されたんです。私以外のメンバーも家族信託の支援を提供できたら、これはすごいことになると思いました。マーケットもこれからでビジネスとしての機会も大きいと思い、家族信託事業を本格展開し始めました。

―― スタートアップとして第二創業したきっかけについて教えてください。

当初は司法書士法人と弁護士法人を併設し、プロフェッショナルファームとしての展開を構想していました。そのような中で、新型コロナウイルス感染症の影響により、意図せず時間に余裕が生まれました。

そこである時、空海が真言宗を開いた高野山に行き、自らの人生や今後の挑戦について考える機会がありました。調べてみると空海は、出自がものを言う時代に宗教を開き、高野山を今でも世界中の人が訪れる山にしたわけですよね。社会を想って活動して大きな事業を創った、空海は実は起業家とも言える存在なのではないかと思ったんです。

私も挑戦すること自体に満足するのではなく、社会にとって正しいことを成し遂げるべきだと考えるきっかけになりました。そこで家族信託とITを組み合わせたアプローチで、多くの人々に資産凍結のリスク回避手段を提供することを決意し、トリニティ・テクノロジーを創業しました。

家族信託を軸に幅広い社会課題の解決を目指す

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

認知症による資産凍結の問題を抱える人は全国にいます。そのため、各地域ごとに、家族信託に関する相談窓口を設けることが非常に重要です。特に、地方銀行はその土地に住む人々の信頼を得ています。各地方銀行と連携し、家族信託の取り組みを推進していく目的で資金調達を実施しました。

人材採用も強化します。第二創業後の3年間で3つのサービスをリリースできた開発スピードは当社の強みです。こうした事業成長の中核となるエンジニアに加え、新卒採用にも力を入れます。同時に、高齢者の課題を解決する新規サービスの開発も進めています。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

2024年度中には、約3000件のおやとこの契約を獲得することが目標です。これまでは、家族信託の管理アプリをおやとこ契約者向けに提供していました。今後は、おやとこ以外の家族信託を契約した人へも、管理アプリを提供できるよう準備しています。

現在では、不動産の権利書などがデジタル化されつつあります。デジタル遺言書や資産管理などをオンラインで完結するサービスの提供など、事業領域も拡大する予定です。同時に、数年内のIPOも目標として掲げています。

私たちは、士業のネットワークを有し、国内全エリアでサービス提供可能な体制を整えています。今後も高齢者向けのサービスや事業会社、金融機関との幅広い協力関係を積極的に築き、「家族信託と言えば、おやとこだよね」と言われるようなサービスを目指して取り組みたいと思います。

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