日本ハイドロパウテック株式会社

食品テクノロジー分野のスタートアップ、日本ハイドロパウテック株式会社が、東南アジア市場への事業拡大を目的として約4億円の資金調達を実施した。
今回の調達にはInabata Thai Co., Ltd.(以下「IK-T」)が参加している。新たな資金は、ASEAN地域における生産および販売基盤の構築、ならびに独自加水分解技術を活用した食品原材料やブランド展開の強化に充てる計画である。
2014年設立の日本ハイドロパウテックは、加水分解技術を核とした食品原料の企画・開発・製造・販売を手掛けている。同社が開発する加水分解技術は、酵素、熱、物理的処理を組み合わせることで食材を分子レベルで分解し、新たな機能性や用途を持たせることが可能となる。特に、従来の加水分解で一般的に使用される酸を用いず、無酸素・無排水環境で分解を進める点が特徴だ。この製造工程により、エネルギー消費の削減、素材本来の栄養素や風味の保持、アレルゲン除去など複数の利点が生まれる。
事業の主軸はB2B向け原料供給や技術提供だが、B2C領域にも進出している。自社ブランド「ANY1 CHOCO」では100%植物性原料を使用したプラントベースチョコレートを展開し、乳製品やグルテンなどのアレルゲンを排除した製品を製造している。2024年4月にはシンガポールで直営店舗を開設するなど、海外市場へのアプローチも強化している。
代表取締役の熊澤正純氏は、石油化学メーカーでの営業経験を経て食品バイオ分野に進出し、独自の製造技術や事業ネットワークを構築してきた人物である。創業者として同社を牽引しており、これまでにロッテとの資本業務提携や複数のベンチャーキャピタルからの資金調達も実現している。
日本ハイドロパウテックの加水分解技術は、国内外の食品メーカーに原料として採用されている。具体的には、米や豆類などの農産物を起点とした乳化剤、増粘剤、酸化防止剤、旨味や甘味の調整材など、多様な用途に利用されている。化学合成物の代替として天然素材由来のパウダーを提供する動きが加速しており、添加物からの置き換え、アレルゲン対策、ラベル表示の簡素化といった食品メーカーや消費者双方のニーズに応えている。
2024年の国内の代替タンパクの市場規模が1239億円となった。2025年以降、代替乳や微細藻類の需要が拡大し、2030年の市場は1473億円と予測されている。背景には、植物性原材料の高機能化や「クリーンラベル」、サステナビリティへの関心の高まりがある。一方で、従来型の添加物や増粘剤、乳化剤の調達難や規制対応、消費者の安全志向など課題も多い。アレルゲン表示やノンケミカル表示への要請は年々強まっており、これらに応える技術や原材料の提供が重要な分野とされている。
競合領域では、米国のImpossible FoodsやBeyond Meatが代替肉原料を開発しており、欧州や日本国内でも発酵や酵素分解を活用した素材改良や機能性成分の開発が進む。国内外でシンバイオティクス技術、タンパク質改質技術による新食材開発の動きも活発化している。天然原料への特化、アレルゲン管理技術、独自ラベリング手法など、差別化のポイントは多様化している。
今回、稲畑産業株式会社のタイ法人IK-Tからの出資を受け、タイを生産・販売拠点としたASEAN市場での戦略的パートナーシップを構築する。HPS社および稲畑産業株式会社が持つASEAN地域での広範なネットワークや現地パートナーとの協業を通じて、当社の加水分解製品の輸出強化、現地ニーズに応じた新製品の共同開発、さらにタイ国内での製造・加工の現地化を検討していく。