スタートアップの急成長に必要な取り組みとは──。
「Jカーブ」と呼ばれる曲線を描くような急成長を実現するために、スタートアップは数多くの課題を越えていかなければならない。なかでも、実際に売上が立ち始めたスタートアップにとってまず必要となる取り組みとして挙がるのがマーケティング・営業体制の強化だろう。
営業組織の強化・改善の取り組みとして近年注目されるのが「セールスイネーブルメント」の概念だ。テクノロジーを活用しながら、営業担当者のトレーニングやセールスコンテンツの拡充を通じて、担当者全員が成果を創出できるような仕組みを構築する。米国を中心とした海外で整備が進み、数年前から日本でも熱心に取り組む企業が増えている。
ネットプロテクションズとケップルが共催したセミナー「YoY成長率900%のBtoB企業が語る!急成長を実現するためのセールスイネーブルメント」では、これらの取り組みによって高い成果をあげる急成長企業の組織運営の秘訣について、実際の事例をまじえて解説された。
セミナーには営業支援システムを開発するSales Markerの花田 海氏が登壇。同社は、企業の検索行動からわかるニーズに基づき、顧客起点で営業活動を行う手法「インテントセールス」を国内で広げており、年次成長率900%を実現する急成長中のスタートアップだ。また、ネットプロテクションズでNP掛け払いのセールス組織を統括する揚田氏も登壇し、急成長を実現する組織運営について解説した。
株式会社Sales Marker|新規事業開発部 部長
花田 海 氏
新卒で株式会社ファイブフォックス入社、コムサの販売員として全国売上1位を4度達成。株式会社イノベーションに移り、広告営業と新規事業マネージャーを兼任し年間MVPを受賞。その後、株式会社ColorkrewにてHRtech、マネーフォワードグループ(旧 HiTTO株式会社)ではAIチャットボットの事業マネージャーとして従事。株式会社Sales Markerでは新規事業立ち上げ担当としてインテントマーケティングを実現するSales Marker Leadをローンチ。
株式会社ネットプロテクションズ|BtoBセールスグループ NP掛け払いセールス統括
揚田 大地氏
新卒で繊維商社へ入社。営業から生産管理まで幅広く行う。2016年に株式会社ネットプロテクションズに入社し、NP掛け払いセールスグループに配属。業界開拓、戦略立案、組織マネジメントなど行い、2020年にセールス統括として従事。2024年4月よりマーケティング部署を兼務し、マーケティングからセールス領域までNP掛け払いの拡販に向け活動。
YoY成長率900%を実現する組織運営の取り組み
Sales Markerは2022年3月にサービス提供を開始。リリースから2年でARRは約20億円、導入社数は400社を超えた。セッションの前半ではSales Markerの花田氏より、YoY成長率900%と驚異の売上成長率を誇る同社の組織運営や売上成長の秘訣について触れられた。
急拡大する組織を支えた「オフィスの活用」
まず聞いたのは、Sales Markerの組織規模拡大について。事業の拡大に伴い、組織規模も急拡大しており、設立3期目ながら、業務委託も含めて200名以上の組織にまで拡大しているという。毎月15名程度が入社しており、まずは業務委託から関わる人も少なくない。
「事業成長のスピードを落とさないことを考えた時に、正社員の採用活動はおよそ数ヶ月ほどかかります。早期に成果を出すという観点で、まずは業務委託で携わってもらいながら、その後よければ入社いただくケースも増えています」(花田氏)
Sales Marker では組織開発においても、とにかくスピードを重視しているという。一方で、毎月15名が入社する組織において、さまざまな情報のキャッチアップや新メンバーのトレーニングを適切に行えるのかという課題が残るが、その取り組みの一つとして、同社ではオフィスの整備に力を入れている。出社しやすい環境をつくることで、リアルなコミュニケーションを生み出し、スピードを落とさないようにしながら情報のキャッチアップをできるように取り組んでいる。
基本的に業務委託も含めて出社は自由なスタイルだが、多くのメンバーが自主的に出社しているとのこと。偶然横に座ったメンバーとの会話や、出社によるキャッチアップの効能を本能的に分かっているメンバーも多いのではないかと花田氏は語る。
「フルリモートワークの企業では、開発メンバーの出社率が相対的に低いことが多いと思いますが、弊社の場合、実は最も出社率が高いのが開発メンバーです。顧客が実際に何を求めているのかなど、ビジネスサイドと密にコミュニケーションが取られています。
機能開発の要望を開発チームに共有する際なども、関係者の予定を都度おさえて準備することも不要になるので、そういった観点からも非常にスピーディーな組織運営ができています」(花田氏)
経営陣からの密な情報共有が重要
日常的なコミュニケーションに加えて、同社では月に一度、各部門から当月に注力する取り組みについて発表する「全社方針共有会」を実施して、体系的に全社の方針を共有している。
また、直近では、各部門から発表する共有会に加えて、経営陣から全社員向けの情報共有・発信を意図的に増やしているという。
「経営陣が考えていることを密に共有していくことで、お客様への提案の質がグッと上がった感覚がありました。新しいメンバーもどんどん入ってくるため、経営陣が考えていることを各メンバーにキャッチアップしてもらうことの大事さを改めて痛感しました」(花田氏)
組織が大きくなればなるほど、経営層や各リーダーが考えている事はどうしても伝わりにくくなってくる。大きなビジョンを掲げながらスピード感を持って急成長していくスタートアップにとって、経営陣の考えを社内に浸透させていくために時間を割くことは非常に重要と言える。
カルチャーとして根付く「論点を考える」
続いて、話題は組織運営をする上で大事にしている社内のカルチャーに移った。「急成長を維持するために全社で決めていることや意識していることは?」という質問に対して、花田氏は「全社ですごく意識しているのは、論点を考えること」と答えた。
「多くの人はタスクで仕事を考えます。私たちは、何のためにそのタスクをやるのか、その部分を習慣的に強く意識することを大事にしています。全社員が、自分が取り組む論点を持ち、それに対する打ち手を書き出して業務にあたっています」
そうすることで、経営陣を含む役職者や他のメンバーがどのようなことを意識しているか参考になりますし、その社員の役割もおおよそ見えてきます。各メンバーの視座を上げることや全社方針の理解にも繋がっています」(花田氏)
Sales Marker では、「論点を整理する」カルチャーが根付いているという。各部門のミーティングにおいても論点の整理から始め、それぞれの取り組みについて議論する際にも、整理した論点に紐づく形で取捨選択することを徹底している。
次回は「デットファイナンス」テーマにタイミーCFOが登壇
セミナーの後半では、ネットプロテクションズでNP掛け払い事業のセールスを統括する揚田氏が登壇。急成長するスタートアップにおける、アウトソーシングを活用しながら組織を拡大していく事例について話した。
売上が急拡大するスタートアップが直面する課題の一つとして頻繁に挙がるのが、請求書の発行や代金回収などを中心とした請求業務だ。売上の拡大と比例して、これらの業務プロセスに工数が取られ、営業機会の損失に繋がることも珍しくない。それらの課題を解決する NP掛け払い に触れながら、アウトソーシングを活用して組織を拡大していく事例について紹介した。
Sales Markerとネットプロテクションズは、互いに双方のサービスを利用する間柄でもあり、両社のサービスに関する意見交換を交えながら、組織運営に関する議論が終盤まで続いた。
「スタートアップ経営セミナー」と題して、ストックオプションの活用法に続いて実施された本セミナー。次回はこの7月にユニコーン上場を果たし、スキマバイトアプリを手掛けるタイミーCFOの八木 智昭氏が登壇して「デットファイナンスによる資金調達」について解説する。
昨今の市場環境を背景に、スタートアップの資金調達の手法としても注目が集まる「デットファイナンス」。未上場段階で300億円以上のデットファイナンスを行った立役者にその舞台裏を聞ける絶好の機会となる。
次回セミナーの開催は9月3日。下記フォームより申し込みが可能だ。