株式会社パワーウェーブ

2026年4月27日〜29日、東京都主催の国際イノベーションイベント「SusHi Tech Tokyo 2026」が東京ビッグサイトで開催された。
スタートアップ、投資家、大企業、自治体、研究者、そして市民まで、都市の未来を形づくるあらゆるプレイヤーが東京に集結。初日から会場では、セッションや展示、ピッチコンテストが各所で行われ、熱気に包まれた。
今年のSusHi Techは、過去最大規模での開催となった。東京都によると、世界60の国・地域から820社がピッチコンテスト「SusHi Tech Challenge 2026」に応募し、出展スタートアップ数は770社以上に達した。コーポレートパートナーも前回の47社から68社へと拡大。来場者数は3日間で6万人規模を見込み、アジア有数のイノベーションカンファレンスとして、さらに存在感を高めている。
本稿では、その2日目の様子をレポートする。
Photo Highlights:展示ブースの海を歩く

1階、4階に設置された展示フロアは、初日に引き続き、すれ違うのが難しいほどの盛況ぶりとなっていた。

様々な大学発スタートアップや技術シーズがブースを構えていた。

エチオピアのAIスタートアップ 、Gebeya。自然言語でゲーム、ウェブサイト、アプリ、音楽などを製作することができるプラットフォームを開発・提供している。

モビリティ、FA(工場自動化)用途など向けにワイヤレス給電システムを開発する豊橋技術科学大学発スタートアップ、株式会社パワーウェーブの展示。
SusHi Tech Challenge 2026 ファイナル
28日午後には、前日のセミファイナルを勝ち上がった7社によるファイナルピッチが催された。それぞれのピッチに耳を傾ける参加者で会場はほぼ満席となった。
審査員は、以下の5名が務めた。
Eric Benhamou(Benhamou Global Ventures | Founder & General Partner)
Ashley Grosh(Breakthrough Energy | Vice President)
Murat Aktihanoglu(Remarkable Ventures | Co-Founder and Managing Partner)
Yumiko Murakami(Mpower Partners Fund L.P. | General Partner)
Koichiro Nakamura(Sozo Ventures | Co-Founder and Managing Director)
(英語表記、敬称略)
1. Eztia(米国)── 電力不要の冷却素材で酷暑を乗り越える

MITで材料工学を学び、ペンシルバニア大学で医学を修めたTiffany氏は、途上国でのフィールドワーク中にインフラなしで使える冷却材料の必要性を痛感し、Eztiaを立ち上げた。同社が開発したハイドロゲル素材「HydraVolt™」は、着用するだけで肌の温度を最大10℃下げ、効果は6〜8時間続く。水や洗濯機で濡らして繰り返し使えるのも特徴で、アームスリーブやインナーシャツなどに展開している。価格は40〜60ドル前後と、一般的なスポーツウェアと同程度に抑えた。
シンガポールの政府機関との実証では、警察の制服の下に着用したところ熱放散が約250%向上し、心拍数の回復も約20%速くなったという。日本の建設現場での比較検証では、従来のアームスリーブと比較して皮膚温度が約4℃低くなるという結果が出ている。北海道の小学校やプロ野球チームなどで、異なるユースケースの実証も行ってきた。バッテリーが必要な電動ファンなどのアクティブ冷却と異なり、ハイドロゲルにより電力不要で持続的な温度低下を実現している点が特徴だ。
2. DeepMentor Inc. (台湾)── エッジAIの小型化・コスト削減

EDA(電子設計自動化)エンジニアとして10年以上の経験を有するメンバーで構成される、AIチップ開発スタートアップ。現行製品が抱える「高コスト・高消費電力・長い導入期間・プライバシーリスク」という4つの課題に正面から取り組む。独自の「ミニチュアライゼーション」技術でAIモデルを99%の精度を保ちながら90%小型化し、開発期間を従来の15カ月以上から2〜3カ月へ、チップコストを従来比10分の1にまで削減できるという。
「私たちはAIエンジニアでも、ソフトウェアエンジニアでも、ハードウェアエンジニアでもない。EDA・IC設計エンジニアだ。全く異なるアプローチで問題を解決する」とMitch氏は述べる。同社の特徴は、ソフトウェアの面からではなく、回路設計の面からAIの小型化に取り組んでいる点だ。従来の重いAIモデルと異なり、クラウドに接続する必要がなく、バッテリー消費量も抑えられるため、小型カメラやドローンなどのエッジデバイスへの搭載を見込む。
3. Qarbotech(マレーシア)── 農業廃棄物から生まれたナノ粒子で光合成効率を改善

「カーボン量子ドット(CQD)」を農業に応用したマレーシア発のスタートアップ。米の籾殻などの農業廃棄物から独自の無酸性プロセスでCQDを製造し、植物が吸収できない波長の光を有効な波長に変換するスプレー製品を開発した。遺伝子改変なしに光合成効率を高める、いわば「植物向けのソーラーパネルアップグレード」だ。1エーカー・1サイクルあたり約19ドルという手頃な価格で、小規模農家にも使いやすい設計にしている。
マレーシアでは小規模農家1000人の収入を合計69万ドル押し上げた政府プロジェクトが完了。ザンビアではとうもろこしの収量が31%、パキスタンでは綿花の収量が82%それぞれ向上し、茨城県での水稲試験でも17%の増収を確認した。2024年には200万ドルを調達して生産能力を50倍に拡大し、昨年は売上が前年比4倍に成長。規制面ではマレーシア・タイ・オーストラリアでバイオスティミュラント(生体刺激剤)として認証を取得しており、日本では成和グループと組んで登録手続きを進めている。CQDは醤油やはちみつにも自然に含まれているナノ粒子で、人体や環境への安全性は高いとしている。
4. 株式会社LIFESCAPES (日本)── 脳への電気刺激で、回復不可能とされた手の麻痺を改善

脳卒中後の重症手麻痺に特化したリハビリ医療機器スタートアップ。世界で約1億人いる脳卒中経験者・有病者のうち、約70%に腕の機能の低下・喪失の後遺症があり、年間で約9000億ドルの経済負担につながっているとされる。従来のリハビリは、麻痺した手そのものへのアプローチが中心だったが、LIFESCAPESは「動かせないのは手ではなく脳の問題だ」という発想に立つ。患者が手を動かそうとする意図を脳信号からAIが検出し、指に電気刺激を与えて筋肉を動かす。このフィードバックを繰り返すことで、脳の神経回路が徐々に再編成されていくという。
競合製品では約12週間のトレーニングが必要なところ、同社のデバイスは2〜4週間で同等以上の成果を出せるとしている。医療機器としての承認を得てから1年半で1000人以上を治療し、販売初年度には100万ドルの売上と70台超の出荷を達成した。シンガポールやマレーシアなどアジア各国への展開も進んでいる。米国ではFDA向けの申請を準備中で、日本では今年6月から保険適用に向けた臨床試験を始める予定だ。パーキンソン病やジストニアへの応用可能性も確認しており、対象疾患が広がれば市場規模は30億ドルから100億ドル規模に達するとみている。
5. Munice(韓国)── AIと音響で睡眠をパーソナライズ、日本で有料登録者が3カ月で倍増

アジアの睡眠市場に特化した睡眠改善アプリ「Nightly」を開発・提供する。既存の睡眠補助ソリューションには「使い始めるハードルの高さ」「副作用」「画一的なアプローチ」という弱点があるとして、モノラルビート(音響刺激)と睡眠データのAI分析を組み合わせたパーソナライズド型のサービスを提供している。深い眠りを促す音を夜間に流し、起床前には脳を穏やかに目覚めさせる音に切り替える仕組みで、600万件以上のセッションデータを蓄積してきたという。
App Storeの日本の健康・フィットネスカテゴリ人気チャートでNo.1を獲得し、151カ国でアプリ・オブ・ザ・デイにも選出された実績を持つ。日本の有料登録者数は昨年12月の2万5,000人から今年4月には5万人を突破し、わずか3カ月で倍増している。ウェアラブル連携は現在Galaxy WatchとApple Watchに対応しており、外部APIを介して対応デバイスをさらに拡充する計画だ。現状有料会員の半数以上を20代が占めているが、今後シニア層へのリーチのため健康情報誌への出稿などを検討しており、他企業との提携を通じた企業向け福利厚生への展開も進めている。
6. PragmaClin Research Inc.(カナダ)── パーキンソン病のAI遠隔モニタリング・評価のインフラをつくる

パーキンソン病研究のPhD保持者であるBronwyn氏が立ち上げたメドテック。世界で1000万人以上が診断を受けているパーキンソン病だが、運動障害の専門医を受診できている患者は1割にも届かないという。日本でも近年の調査では約29万人の患者がいることが確認されているが、専門医へのアクセスは限られている。こうした「診断インフラの空白」を埋めるために開発したのが、モーションキャプチャを用いた臨床支援ツール「PRIMS」だ。患者がカメラの前で立ったり座ったりするだけで10分以内にスコアリングが完了し、専門医がいなくても使えるため、地方や農村部の医療機関でも導入しやすいという。
これまでにFDAとの事前相談を2回実施し、試験設計・統計計画について前向きなフィードバックを得ているという。現在は米国3施設でのバリデーション試験を準備・立ち上げ中であり、年内の申請完了を目指す。診断精度は専門医同士の一致率75%を超える85〜90%を達成している。試験で収集したデータはすべて匿名化したうえで自社が保有しており、製薬会社向けのデータ提供も将来的な収益源として見込んでいる。
7. アスエネ株式会社(日本)── 脱炭素のワンストップソリューション、3万社以上が利用

アスエネは2019年創業のクライメートテック企業で、CO2排出量の可視化・削減・報告を行う「ASUENE」を中核に、ESG評価、サプライチェーン管理、LCA/CFP算定などを一体で提供するサステナビリティプラットフォームを展開。欧州CSRDや日本SSBJなど各国で進む開示規制を背景として大企業を中心に導入が進み、国内では約3万社が利用しているという。
AIエージェント「AI NIKOLA」は、企業内部データを活用して排出量算定や規制対応レポート作成を自動化する機能で、各プロダクトを横断的に強化する役割を担う。
米国では反ESGの機運は見られるものの、ニューヨーク州やカリフォルニア州などの州単位では独自の規制が維持されており、大企業を中心に需要は底堅いと同社はみている。単なるCO2管理ツールではなく、非財務データを統合管理し規制対応と経営判断を支援するプラットフォーム企業として、M&Aも活用しながらグローバル展開を進めていく構えだ。
受賞結果

グランプリに輝いたのはQarbotech。農業廃棄物由来のCQD製造技術の独自性、世界8000エーカー超にわたる商業農場での実証実績、そして昨年の売上4倍成長という確かなトラクションが総合的に評価された。
受賞スピーチでChor Chee Hoe氏は「マレーシア生まれの技術が世界に通用することを証明できた。日本をゲートウェイに、より多くの農家に技術を届けたい」と語り、光合成促進技術による世界規模のCO2削減への貢献への意欲も示した。
小池東京都知事も閉会の挨拶でQarbotechの受賞を祝福しつつ、「すべてのセッションが活気にあふれ、素晴らしい議論が生まれた。SusHi Techをより大きな成功へのランチパッドにしてほしい」と出場スタートアップにエールを送った。
まとめ
2日目は、SusHi Tech Challenge 2026のファイナルピッチが開催され、イベント全体の熱量をさらに押し上げた。
2023年の第1回から規模を大幅に拡大し、今年は海外からの応募が半数以上を占めたSusHi Tech Challenge。ファイナルには気候変動、医療、農業、AI、睡眠、脱炭素という多様なテーマに挑む7社が登壇し、電力不要の冷却素材、エッジAIチップ、光合成を高めるナノ技術、神経リハビリデバイスなど、技術の幅広さと地域を問わない普遍性が際立った。東京発のこのコンテストが、持続可能な都市づくりというテーマを超えて、地域横断的なイノベーションを生み出す場として成熟しつつあることを印象づけるセッションだった。
展示ブースや各ステージのセッションも充実しており、技術シーズ段階のスタートアップから上場企業まで、また日本の各都道府県からアフリカまで、領域・フェーズ・地域の面でそれぞれ異なるプレイヤーが一堂に会した。投資家、事業会社、イノベーション支援機関、地方自治体、官公庁、国際機関とエコシステムの各プレイヤーが交差する場として機能しており、単なる展示イベントにとどまらない密度があった。
ここで生まれた出会いが、どのようなイノベーションへと繋がっていくか。続報が楽しみだ。











