CEOが建設現場に1カ月泊まり込み──KENCOPAが挑む70兆円産業のAI化

CEOが建設現場に1カ月泊まり込み──KENCOPAが挑む70兆円産業のAI化

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国内の建設投資は75兆円規模※1にのぼり、建設業は日本経済を支える基幹産業の一つとなっている。だがその現場は今もなお、紙やExcel、そして熟練者の「勘」に多くを依存していると言われる。慢性的な人手不足に加え、2024年4月からは時間外労働の上限規制(いわゆる建設業の2024年問題)も適用され、限られた人数で工事を回す省人化は、業界全体で待ったなしの課題となっている。

この課題に向き合うのが、2024年3月設立の建設特化型AIスタートアップ、株式会社KENCOPAだ。同社が最初の突破口に選んだのは、工事全体のスケジュールの骨格となる「工程表」の作成・運用である。

工事の元請けとなるゼネコンは、工事の受注後、限られた期間で全体工程を組み立て、発注者に提出する必要がある。大規模な現場では100社を超える業者が関わり、2〜3年に及ぶ工期の中で、いつ、どの業者が、どの工事を行うのかを一つずつ定めなければならない。天候やトラブルによって工期が遅れた場合も、この工程表を都度修正する。経験を要するため属人化しやすい業務の一つでありながら、資材の発注、コストの積算、安全管理といった周辺業務すべての起点でもある。

KENCOPAが提供する主力プロダクト「Kencopa工程AIエージェント」は、設計図書や仕様書、歩掛(ぶかかり)※2、施工データなどをもとにこの工程表の作成を自動化する。担当者の負担を軽減するだけでなく、過去案件の知見を蓄積・活用することで、属人的になりやすい施工管理業務の標準化や技術継承も支援する。

KENCOPAの代表取締役CEOである安村 荘佑氏は、前職のマッキンゼー・アンド・カンパニーで建設業のDX推進に携わった後、起業を決意。約1カ月間、現場監督と同じ生活を送りながら現場課題を学んだという。建設現場の工程管理にはどのような課題があり、AIエージェントはその業務をどう変えようとしているのか。安村氏に訊いた。

工程表作成から見積もりまで、AIで効率化

Kencopa工程AIエージェントを活用するのは、ゼネコンの現場監督担当者だ。

「現場監督は、非常にタイトなスケジュールのなかで工程表を作りきる必要がある」と安村氏は課題を語る。加えて、工程表はオンプレミス型ソフトやExcel、CADで作られることが多く、データが共有されにくい。「(工程表作成や段取りについて)似た現場から学べる機会は多いはずだが、情報共有や、若手が事例情報を活用して技術継承につながる土台ができていない」という。

「Kencopa工程AIエージェント」は、過去の案件データをもとにAIが工程表を自動生成する。「手書きで最初から100まで作る必要がなく、7〜8割はAIが過去の案件などを参考にしながら作ってくれる。そこが一番大きな価値です」と安村氏は説明する。

「工程表は正解がない領域で、現場監督10人に頼めば10通りの工程が出てくる。AIを使えば、工期を優先したパターン、コストを優先したパターン、安全を優先したパターンといった複数のシナリオを出して比較できます」と同氏は語る。

また、Kencopa工程AIエージェントでは、全体工程や月間工程、週間工程、安全衛生工程など約20種類のフォーマットを、単一のデータソースから出力できる。従来はフォーマットごとに別々のファイルを作成・修正する必要があったが、一つを更新すれば各フォーマットに反映される。チャット形式の指示で工程変更を反映することも可能だという。

AIエージェントイメージ画像
画像:KENCOPAウェブサイトより

現場監督と同じ生活から見えた課題

安村氏は、前職のマッキンゼー・アンド・カンパニーで製造・建設・物流など複数のB2B領域のDX推進を支援し、最後の半年ほどは建設業に携わった。以前海外から帰国した際に日本のインフラの質の高さを実感したことや、創業メンバーの実家が建設会社であったことも、この領域に取り組む契機になったという。

創業前には約1カ月間、現場の宿舎に寝泊まりし、現場監督と同じ生活を送った。

「コンサルティングでの関わり方は、経営課題や中長期の戦略が中心になります。一方で、実際に現場で過ごすことで、何が大変なのか、現場監督が日々どのような負担を抱えているのかを具体的に理解できました。その経験は、今の課題設定にもつながっています 」と安村氏は振り返る。

工程表を起点に、発注・積算・安全管理へと展開、完全自律施工目指す

今後、KENCOPAは工程管理を起点に周辺業務へ機能を広げる方針だ。安村氏は「工程表を起点に、発注や資材の手配など、いろいろなタスクが各所で発生する。そういった意味で、工程表は現場業務のハブ」と説明する。

イメージ図
画像:KENCOPAウェブサイトより

たとえば、コンクリート工事を行うのであれば、その2週間前に発注作業を終えておく必要がある。トラックやダンプの手配も、工程表を起点に発生する。現場では、工程表が単なるスケジュール表ではなく、発注、積算、安全管理、品質管理など周辺業務の起点になっている。

この工程表作成のデータが日々蓄積されていることが、競合優位性であると安村氏は説明する。「工程を作るには複雑な処理が必要で、簡単には作れない。現場のデータがどんどん蓄積されていることも差別化要因の一つ」と語り、工程を書くだけのツールには競合もいるものの、AIエージェントとして工程そのものを生成する領域では「唯一無二」だと自負する。

同社は今後、蓄積されたデータを活用しながら発注作業や積算業務、安全管理といった周辺領域にも機能を広げ、一気通貫での価値提供を目指す。プロダクト面では、2026年4月に株式会社竹中土木が「Kencopa工程AIエージェント」のPoC(概念実証)を開始しており、ゼネコンとの連携も進んでいる。

将来的には、ハードウェアと連携した完全自律施工も構想する。

「技術者だけでなく、職人と呼ばれる技能者も人手が足りていません。将来的には、ドローンやヒューマノイドといったハードウェアと連携した展開も考えていきたいです」と安村氏は語る。

KENCOPAは、工程表作成という現場の中核業務を起点に、施工管理全体の省人化・自動化を目指す。建設業の生産性向上と技術継承という長年の課題に対し、AIエージェントというアプローチがどこまで現場に定着するかが今後の焦点となる。

※1 国土交通省が2025年8月に公表した「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」による。2025年度の建設投資は75兆5,700億円の見通し。

※2 歩掛(ぶかかり):建設や土木などの工事で、一つの作業に「必要な手間」や「時間・人数」を数値化したもの。

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