拡大を続けるモバイルゲーム市場──注目のスタートアップ133社

拡大を続けるモバイルゲーム市場──注目のスタートアップ133社

written by

高 実那美

スマートフォンをはじめとしたモバイル端末の普及により、ゲーマーではない一般層の間でもゲームを行う習慣が定着し、モバイルゲーム市場が拡大している。コロナ禍の自粛生活もモバイルゲーム市場の拡大を後押しした。専用のゲーム機器を購入する必要がなく、アプリストアから手軽にダウンロードできるモバイルゲームは、いつでもどこでも遊ぶことができ、移動や待ちなどの隙間時間を埋める方法として確立している。

世界のモバイルゲーム市場

モバイルゲーム市場は、現在ビデオゲーム市場全体の51%を占めるまでに成長している※1。世界市場規模は2024年に1,027億米ドルと評価され、年平均成長率(CAGR)10.4%で推移し、2030年には1,848億米ドルになると予想されている※2。コロナ禍の影響もあり、アプリ内課金は2021年まで増加を続けていたが、巣ごもり需要の後退を受け、2022年に減少に転じたもののコロナ禍以前の水準は上回っている。2023年以降は再び増加に転じており、安定して推移すると予想されている。人気の高まるeスポーツのモバイル版も、モバイルゲーム市場の拡大を後押ししている。国際オリンピック委員会(IOC)は、eスポーツの大会「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」創設の計画を発表しており、2024年パリ夏季オリンピック会期中に協議するとした※3

Google PlayストアやApple Appストアの利便性が高まり、消費者が簡単にゲームをダウンロードできるだけでなく、開発側のゲーム配信が容易となったことから多くのモバイルゲームが誕生している。

2023年に世界で最も多くダウンロードされたモバイルゲームは、デンマーク発のSYBO Gamesが開発した『Subway Surfers』で、2億1,800万ダウンロードを記録した※4。キャラクターが障害物を避けながらゴールまで走り抜けるゲームで、操作が簡単で年齢や国籍を問わず遊ぶことができる。こうした特徴を持つゲームは、ハイパーカジュアルゲームと呼ばれ、シンプルな設計で短時間でプレイできることからターゲット層が広く、また開発が比較的容易でゲーム内広告を利用するビジネスモデルなどにより市場が拡大している。SYBO Gamesは、2022年にIT・ネットサービス大手の中国上場企業Tencentを親会社に持つMiniclip(スイス)に買収された。

モバイルゲームをはじめとしたゲーム市場では、この他にも大規模なM&Aが実施されており、例えば、2022年にMicrosoftが687億米ドルでActivision Blizzardを買収した事例が挙げられる。急成長するモバイルゲーム領域でのMicrosoftの存在感を高めると共に、同社が運営する定額ゲームサービスXbox Game Passのゲームラインナップを拡充することで、プロダクトの魅力を高めユーザーを囲い込む狙いがあるとされる。この他には、Take-Two InteractiveによるZyngaの買収や、ソニーによるフィンランド発モバイルゲーム制作企業Savage Game Studiosの買収が挙げられる。ソニーはモバイルゲームを通して、PlayStationに親しみのない層へユーザーを拡充していく狙いがある。このようにモバイルゲーム市場では、大企業が中小のゲーム開発企業を買収するケースが多く見られる。市場の拡大により異業種から参入する企業が増え、M&Aが活発化している。

また少し前まで、ゲームをするのは男性というイメージがあったが、モバイルゲーム人口の48%が女性というデータもあり、エンゲージメントの度合いや課金志向は男性より高いと言われている※5。パズルゲームをはじめ短時間でプレイできるハイパーカジュアルゲームの人気が高く、少ない一人時間を過ごすための手段として好まれている。こうした背景から、開発側には女性のライフスタイルに合ったモバイルゲームの開発が求められる一方、2021年のゲーム開発者調査では男性開発者が61%、女性開発者が30%という結果となり、開発側の性差の偏りが指摘されている※6

モバイルゲーム市場の拡大を受け、ゲーム依存への問題意識も顕在化してきた。WHO(世界保健機関)は、2019年にゲーム障害(Gaming Disorder)を認定し、2022年に精神疾患の1つとして国際疾病分類の依存症分野に追加している。時間や頻度をコントロールできない、日常的な生活よりゲームを優先するといった症状が挙げられ、特にモバイルゲームは場所の制約がないことからリスクが高いと考えられる。ゲーム内コミュニティやコレクション要素があるゲームは、途中で中断することが難しく、依存傾向になりやすいとされる。米国では、子供が依存症に陥った家族がゲーム開発会社を提訴するという事態も起きており、開発側・ユーザー共に対策に取り組まなければならない課題である。

日本のモバイルゲーム市場

モバイル・ソーシャルゲームの国内市場規模は2022年に約1.5兆円とされ、ビデオゲーム全体では中国、米国に次ぐ世界第3位の市場となっている※7。国内市場では、MIXIやサイバーエージェント、コナミグループ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、スクウェア・エニックス・ホールディングスといった上場企業、またはその子会社が運営するゲームの人気が高く、収益別順位で上位を占めている※8。2023年下半期のゲームタイトル別収益では、1位『モンスターストライク』(MIXI)、2位『Fate Grand/Order』(ソニー・ミュージックエンタテインメント子会社のアニプレックス)、3位『プロ野球スピリッツA』(コナミグループ)と続き、上位6位までを国内上場企業またはその子会社が独占している※9

国内で2023年にリリースされたモバイルゲーム136タイトルのうち、約65%を占めるのがRPGで人気の高いジャンルといえる。RPGにおける国内消費者支出シェアは、リリース後2年以上のタイトルが約70%を占めるとされ、同じタイトルを継続的に利用する傾向があり、人気は高いものの新規参入が難しいジャンルである※10。また位置情報ゲームも人気があり、世界の位置情報ゲーム収益の約50%が日本に起因するなど、世界最大の市場となっている※11。主要なタイトルとして『ドラゴンクエストウォーク』(スクウェア・エニックス・ホールディングス)、『Pokémon GO』(Niantic)が挙げられ、移動手段に徒歩や電車を使うライフスタイルもユーザーの多い理由として考えられる。またポケモンなど日本発のIP(知的財産)を活用したモバイルゲームが上位を占める点も特徴として挙げられる。

IPをベースとしたビジネスモデルは、モバイルゲーム市場で主流となっている。特に日本は上位200タイトルの66%がIPベースとなっており、米国の43%と比較してIP活用が活発であるといえる※12。アニメや漫画といった日本が得意とするコンテンツをゲーム開発に利用することで、既存のファン層にアプローチできるため高収益が期待できる。またIPコラボと呼ばれる、アニメや漫画などとモバイルゲームがコラボするマーケティングも活発に実施されており、例えば、RPGモバイルゲーム『白猫プロジェクト』はTVアニメ『SPY×FAMILY』と2022年にコラボキャンペーンを行ったことで、アプリストアの収益ランキングが20位以上アップしたとされる※13。2023年下半期収益1位で継続的な人気を誇る『モンスターストライク』は毎月IPコラボを行っており、IPコラボがゲーム内課金を増加させ、継続的な人気を獲得する上で重要な要素であると言える。

カオスマップと注目企業

本レポートでは、モバイルゲームを運営する国内外のスタートアップ133社を、主要なゲームタイトルや事業概要別にカテゴリー分けし紹介していく。

ハイパーカジュアル

本カテゴリーには、複数のハイパーカジュアルゲームを運営する国内企業を6社、海外企業を10社分類している。カオスマップ内で企業数の最も多いカテゴリーである。

ハイパーカジュアル

コロナ禍の自粛生活の影響で急速に需要を伸ばしたハイパーカジュアルゲームは、短時間で簡単に行え、子供から高齢者までプレイすることができるモバイルに特化したゲームジャンルである。世界のハイパーカジュアルゲームの市場規模は、2021年に156億米ドルと評価され、CAGR8.0%で推移し、2032年には362億米ドルになると予想されている※14

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※ 1 statista 「Mobile gaming market worldwide - Statistics & Facts」
※ 2 P&S Intelligence 「Mobile Gaming Market Size & Share Analysis」
※ 3 International Olympic Committee 「IOC EB proposes creation of “Olympic Esports Games” to IOC Session」
※ 4 Business of Apps 「Most Popular Apps (2024)」
※ 5 YouAppi 「The Untapped Potential of Female Mobile Gamers」
※ 6 statista 「Distribution of video game developers worldwide from 2014 to 2021, by gender」
※ 7 statista 「【日本のモバイルゲーム市場】収益化モデルと人気タイトル」
※ 8 Sensor Tower 「2023年上半期日本のモバイルゲーム収益トップはモンスト、成長量では収益・ダウンロード数ともにスターレイルがトップに」
※ 9 Sensor Tower 「2023年下半期日本のモバイルゲーム収益トップ3はモンスト、FGO、プロスピA、成長量ではモンハンNow、ドット勇者、ファンパレなど新作が上位に」
※ 10 PR TIMES 「data.ai(旧App Annie)、2023年に日本国内でゲームアプリが計137億4,800万ダウンロードされたことを発表」
※ 11 Sensor Tower 「日本の位置情報ゲームの年間収益は6億ドル以上で世界の約50%、ドラクエウォークは月間滞在時間10時間以上が30%以上」
※ 12 udonis「IP-Based Mobile Games: Why They re Dominating the Industry」
※ 13 Sensor Tower 「モバイルゲームと人気IPコラボ:SPY✕FAMILYコラボの影響力」
※ 14 Business Research Insights 「Hyper Casual Gaming Market Size, Share, Growth and Industry Analysis」

新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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