高まる株価算定の重要性、市場の動向やその背景とは
M&Aや増資などの場面で、企業の適正な株価算定を必要とする機会がある。公開市場の株価を持たない未上場企業の株価算定には、様々な方法を用いながら適切な株価算定を行うことが必要だ。CVCや事業会社によるスタートアップ投資やM&Aも増加傾向にあり、頭を抱える担当者も少なくない。
こうした背景からその重要性を増す株価算定について、株式会社ケップルの株価算定チームが解説する。
投資判断時の株価算定の流れ
ケップル:企業にとって、投資は自社の企業価値を上げるために重要な手段です。どこに、何を基準に、どのくらい投資をするかという投資判断はイコール経営判断ととらえ、慎重かつ適切に行う必要があります。投資先の株式をいくらで買うかという株価の設定についても投資意思決定における重要な論点です。
株式価値の設定において、まずは「企業価値評価」のプロセスが必要となります(バリュエーションとも呼ばれます)。企業価値は、事業から創出される価値である事業価値に加え、非事業資産の価値も含めた企業全体の価値を指します。ここから有利子負債などの他人資本を除いた株主に帰属する価値を株主価値と呼び、そこから特定の株主が保有する株式価値が導き出されます。これが株価算定の一連の流れです。
非公開株式のような客観的な評価がない有価証券については、最終的には売り手と買い手の交渉によって価格が決まるとはいえ、判断基準となる土台は必要です。株価算定は適切に行われ、投資の意思決定の確固たる裏付けとする必要があります。
株価算定の重要性とは
多くの事業会社では、監査の際に、投資実行時の株価算定が適切に行われているかという点にもチェックが入ります。スタートアップ投資が軌道に乗ってきて、投資先が増えてきた企業こそ、手を抜かず対応する必要があります。
スタートアップ投資が増えることは、決算に与えるインパクトが増えることを意味します。つまり、バランスシートを見た時に投資有価証券などの資産が大きくなるため、投資先の業績悪化による減損リスクも高まり、監査の目線もシビアになります。監査法人を納得させるだけの、しっかりとした準備が投資担当者にとっても極めて重要になってくるのです。
一方でスタートアップ企業には市場価格がない、ビジネスが確立途上で環境の変化が激しい、事業計画値と実績値の乖離が大きくなりやすい、などの特徴があります。情報開示の体制も未整備であることが少なくありません。
ここからは、監査における主な着眼点について解説します。
株価算定に関する監査時の着眼点
①事業計画の実現可能性
多くの場合、スタートアップの株価算定にはインカムアプローチのひとつであるDCF法が用いられます。DCF法は将来獲得することが期待されるキャッシュフローに基づき評価を行うため、将来の収益獲得能力や固有の事情を価値に反映させることができる点で優れています。
その反面、将来予測が強気すぎたり、あるいは弱気すぎたりすると適切な評価となりません。
そこで、DCF法の算定に用いる事業計画の確度については監査でチェックが入るポイントになるのです。
事業計画の確度検証にあたっては、綿密な投資先へのヒアリングが重要です。極端な急成長や悪化等があれば、その論拠を確認する追加的な検討・分析が必要となります。その結果、合理的な理由が見いだせない場合には、実現可能性の低い目標値であると見なし、割引率の水準に反映したり、事業計画自体を修正する等の対応が必要になります。
計画の実現可能性を捕捉する具体的な対応策として、ミドル・レイタ―ステージの会社に関しては、類似セクターの上場企業の上場前後における業績と比較して大幅な乖離が無いかを確認しておくという方法もあります。比較に適した類似上場企業が存在する場合には有意です。
併せて、株価に直接影響のあるフリーキャッシュフローにかかわる要素(税コスト、資本的支出、減価償却費、運転資本など)の算出過程に漏れがないか、投資先と確認しておくことも重要です。損益計算書に加えて、資金繰り計画を作成しておいてもらうと効果的です。
②割引率
事業計画同様に、DCF法による企業価値評価においては、会社の将来価値を現在価値に割り引く「割引率」の正当性が注視されます。
割引率とは、将来のキャッシュフローの現在価値を求める計数の値のことです。本質的には、将来のキャッシュフローのリスクに応じて投資家が期待する収益率を定量化し、これを現在価値の算定に反映させるものです。割引率として定量化された投資家の期待収益率は、投資先企業にとっては資本コストとしての役割を果たします。
割引率は企業の生み出すキャッシュフローのリスクに応じて決まります。一般的に、リスクの高い投資には高い収益率が求められますので、それに応じた高い水準の割引率が適用されることになります。一方で、スタートアップ固有のリスクもあり、それをいかに割引率に反映するかについては厳密な理論が存在しません。
恣意性や主観が介入しやすい部分になりますので、採用した割引率の根拠については監査時に細かくチェックが入ります。算出方法、割引率適用のベースとなる事業計画の確度とのバランス、企業ステージの判断は適切かなど、体系的に説明できることが重要です。
専門家への相談も株価算定の手段として有効
市場価格のない企業の株価算定には、不確定な要素を含む難しい判断が伴いますが、当然ステークホルダーに向けた根拠付けは必要です。明確な答えが無い中で、どれだけ「納得感のある説明ができるか」が肝になります。
直近で投資対象先に他社が投資を行っている場合、当該他社はどの程度の超過収益力を見込んでどの程度の評価額で投資しているか?というのも根拠にすることができます。第三者機関に対象会社の評価を依頼するのも説明材料として有用です。自社での恣意性も排除でき、最も手間がかかりません。専門家に相談できる機会としても、ぜひ活用してみてください。
また、4月には日本公認会計士協会から、「スタートアップ企業の価値評価実務」が公表されました。こちらについても今後解説していきます。
ケップルでも株価算定や財務DDを承っておりますので、「第三者評価」として活用のニーズがありましたらぜひご検討ください。