株式会社ADVATEC

診察を終えた患者が診察室を出ても、医師の一日は終わらない。病院を閉めたあと、その日に診た患者の話を思い出しながら医療記録を作成する。カルテを書き続けた末に腱鞘炎になってしまった──そんな医師もいるという。
診療現場では、医師と患者の会話が、そのまま医療記録になるわけではない。
医師は患者の話を聞きながら、症状を整理し、電子カルテに入力し、診療後にも記録を整える。診療記録は医療の質を支える重要な業務である一方、医師にとって大きな負担にもなっている。こうした負担の軽減は、2024年に施行された「医師の働き方改革」でも重要な論点とされている※1。
この課題に向き合うのが、株式会社ADVATECが提供する音声AI医療カルテ作成支援サービス「コエカル」だ。診察中の会話を録音するだけで、SOAP形式(主観・客観・評価・計画の4項目に情報を整理する形式)の医療記録を自動生成し、カルテにそのまま転記できる状態にする。医師と患者の対話を、医療記録へと変換し、様々な用途に活用するためのサービスだ。
同社は2026年8月、プレシリーズBラウンドにおいて、複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資により、総額約1.6億円の資金調達を実施したと発表。これまでの調達実績と合わせ、累計調達額は約7.6億円となる。
また、同社は2026年6月、コエカルの正式提供を開始した。先行提供開始から約7ヶ月で導入医療機関は300院に達しているという。今回調達した資金は、プロダクト開発と採用強化に充てる。
代表取締役の池田和泉氏に、コエカルを立ち上げた背景や、医療現場での反響、今後の展望について聞いた。
カルテ入力に追われる診察現場を変える
──御社の事業について教えてください。
池田氏:直近では、「コエカル」という事業を展開しています。2025年11月にベータ版をローンチし、約7ヶ月で300院に導入いただいてます。
病院に行くと、医師が患者さんと話しながらPCでカルテに打ち込んだり、紙カルテにボールペンで記載したりして、診療記録を残しています。コエカルは、その診察中の会話を音声で録音し、文字起こししたうえでSOAP形式のカルテを自動生成するソフトウェアです。
医師が紙カルテに記載したり、PCへ打ち込んだりする作業を減らし、患者さんとの対話に集中できるようにすることを目指しています。

──これまでの事業の変遷や、コエカルを始めた経緯を教えてください。
もともとは医療とは異なる領域で事業をしており、27歳の時には、インフルエンサーのDtoC事業を上場企業に売却した経験があります。
薬学部出身ということもあり、いつか医療系の事業に携わりたいという思いはありました。ただ、いきなり医療領域で立ち上げるのは難易度が高い。そこでADVATECでも、まずは経験のあったインフルエンサーのマッチングプラットフォーム「Beee」で会社を軌道に乗せ、事業が回るようになってから、本命だった医療領域に踏み出しました。
医療の中でこのサービスにたどり着いたのは、自分自身の体験がきっかけです。
親族の通院に付き添って診察に同席したとき、医師は話を聞いてくれてはいるものの、ずっとカルテを打ち込んでいて、ほとんど目が合わない。医療現場を見てきた私にとっては見慣れた光景でしたが、同席した親族は「先生が目を合わせてくれない。本当に話を聞いてくれているのだろうか」と不安を口にしていました。
この打ち込み作業がなくなれば、医師はもっと目の前の患者さんに集中でき、誤字脱字や記載漏れも減らせる。そう考えて立ち上げたのがコエカルです。
記録の質を高め、診療報酬の適切な算定を支援
──コエカルの特徴や強みは、どのような点にありますか。
診察中の会話を、そのままカルテにする医療特化の音声AIである点です。診察の開始時に録音を始め、終了時に止めるだけで、AIが会話の文脈を踏まえて数秒でSOAP形式のカルテを自動生成します。医師は特別な操作をほとんど必要とせず、目の前の患者さんとの対話に集中できます。
そしてもう一つ大きいのが、医師が「入力したこと」ではなく、診察の「会話そのもの」を記録できる点です。手入力では、医師が要点を頭でまとめて書くため、口頭で説明した内容や患者さんとのやり取りは省略されがちです。コエカルは会話を文字起こししたうえでカルテにするので、従来の手入力では記録しきれなかった口語の内容まで残せます。

──口語の内容まで残せることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
詳細な記録を残すことは、提供した医療を適切にカルテへ反映させることに関わってきます。患者さんにどのような説明をしたのか、どのような治療の選択肢を提案したのかといった内容が記録されていないと、クリニックが行った丁寧な診療が、実績として正しく評価されないケースがあります。診察中に話した内容を記録として残すことで、こうした記載漏れを防ぎたいと考えています。医師と患者さんのやり取りを適切に記録されれば、医療記録そのものの質向上につながります。結果として、病院やクリニックの経営を支える一助にもなると考えています。
──先行提供開始から約7ヶ月で300院に導入されているとのことですが、これまでどのような反響がありましたか。
7月末時点で、実際に300院に導入いただいており、利用者の方々にアンケートも実施しています。最も多かったのは、カルテの打ち込み業務が減ったという声です。
今の医療現場では、医師が患者さんを次々に診察していかなければなりません。カルテの入力が終わる前に、次の患者さんが診察室に入ってくることもあります。その結果、病院を閉めた後に、その日に診た患者さんの内容を思い出しながらカルテを記載している医師も少なくありません。なかには、1日あたり2時間前後をカルテ記載に充てている方もいます。「打ち込み業務が多く、腱鞘炎になってしまった」という医師もいるほどです。
コエカルは、診察中の会話をリアルタイムで文字起こしし、その場でカルテを生成します。導入先からは、診療後のカルテ記載時間を8割ほど削減できたという声もいただいています。加えて、「患者さんの目を見て話せるようになった」といった、診療そのものの質に関わる変化の声も届いており、こうした手応えが導入の広がりにつながっていると感じています。
──現在、どのような診療科・規模の医療機関で利用が広がっていますか。
メインは内科です。総合病院というより、地域に根ざしたクリニックでの導入が中心です。一方で、一部の総合病院にも導入いただいています。
コエカルは、SOAP形式のカルテを生成するだけではありません。ボタン一つで、退院後の食事などを助言する栄養指導向けのフォーマットや、多職種で患者さんの治療方針を話し合うカンファレンス(症例検討会)向けのフォーマットに変換したり、他院への紹介状のフォーマットを出力したりすることもできます。
こうした用途の広がりから、医師だけでなく、栄養士や看護師などに利用いただくケースもあります。例えば、看護師が事前問診を記録し、その内容を医師が引用しながら診察する。そうした形で、チーム医療における情報連携にも活用できます。
患者ごとの経時変化を蓄積する設計が生む差別化
──差別化ポイントを教えてください。
一番の差別化ポイントは、質と速度だと考えています。
質の面では、開発メンバーに医療資格者が多く関わっていることが大きいです。薬剤師や看護師など、実際に医療現場で課題を感じていたメンバーの知見をもとに開発しています。そのため、現場で使いやすいUIやプロンプト設計、カルテの出力形式につながっています。
もう一つの強みは、患者さんごとの経時変化を追える設計です。患者さんが診察室に入ってくる前に、これまでの経過を踏まえて診断の準備ができる。単にその場の会話を文字起こししてカルテを作るだけでなく、患者さんが良くなるために必要な情報を蓄積し、診療に生かせる点が大きな違いだと考えています。
──セキュリティ面での取り組みについても教えてください。
医療データは、個人情報の中でも特にセンシティブな情報です。そのため、厚生労働省や医師会が定めるガイドラインに沿って、サーバー運営やデータ管理を行っています。
私たちは当初から、日本国内にサーバーを置く設計でサービスを構築しています。医療現場で安心して使っていただくためにも、セキュリティやデータ管理の体制は重要だと考えています。
3年で3000院目標、医師が患者と向き合える医療へ
──今回の資金調達の使途を教えてください。
大きく2つあります。1つは、営業とカスタマーサクセスの採用強化です。導入いただく医療機関が増えているため、現場に伴走できる体制を整えていきます。
もう1つは、コエカルに付随するサービスを広げるための開発体制の強化です。エンジニアを中心に採用を進め、プロダクトの機能拡充に取り組んでいきます。
──目標として掲げている数値はありますか。
3年後に、導入医療機関数を現在の10倍にあたる3000院にすることを目標にしています。総合病院への展開についても、現在複数の商談が進んでおり、今後さらに増やしていきたいと考えています。
まずは、コエカルによって医師の記録業務を減らし、患者さんに向き合う時間を増やすことに取り組みます。医療現場には、まだIT化できる余地が多くあります。診療記録の自動化を入り口に、医療従事者がより患者さんと向き合える環境をつくっていきたいです。






