(2022年5月23日週) 海外資金調達 Weekly <Seed&Early編> 自動車/EV関連から3社Pick-Up 持続可能性への配慮で前進する自動車業界のEコマース化
この記事では、5月23日週に資金調達が報道されたシード・シリーズA・シリーズB(それぞれプレラウンドを含む)の企業を調達額順に紹介します。
シード第1位 Astroforge(資金調達額1,300万ドル)
シードラウンドで1,300万ドルを調達したAstroforgeは小惑星の採掘にチャレンジするスタートアップです。10年以内に小惑星の採掘・物質の持ち帰りを実現することを目指しています。同社は宇宙空間で物質を製錬する技術を開発したとしていますが、多くのことは明かしていません。ライドシェアの利用につき、ペイロード200kg以下の比較的軽量なオペレーションを目標としており、白金族金属を豊富に含む惑星に焦点をあてている様子です。Astroforgeのターゲットは直径20m~1.5kmの小惑星であり、地球近傍の1,000万の天体のうち、100万弱の天体に関心を抱いているといいます。
Brainy Insightsのレポートによると、宇宙の採掘市場は2020年の約9.5億ドルから、2030年には約42億ドルに成長する見込みであり(※1)、IspaceやTransAstra、Asteroid Mining Corporationをはじめ多くの企業が取り組んでいます。
シード第2位 Sylndr(資金調達額1,260万ドル)
プレ・シードで1,260万ドルを調達したSylndrはエジプトで中古車のオンラインマーケットプレイスを運営しています。2週間前にはシリーズAの大型調達として同じく中古車販売プラットフォームを運営するオーストラリアのCarmaを紹介しており、同領域は過熱しているセクターの一つです。
今回紹介するSylndrは、売りたい個人から車を入手し、調整したうえで、買い手に再販売するモデルとなっており、7日間の返金保証、保証、柔軟な資金調達のオプションを提供する予定とのことです。
エジプトはアフリカ有数の自動車保有国であり、600万台以上の自動車(8割が乗用車)が走っており、中古車が新車の約3倍にのぼるとされています。エジプトを含む新興国では買い手と売り手の間の不信感や、クレジットアクセスが課題となっており、中古車購入においては約5%しか融資を受けられないとも言われています。(※2)
シリーズA第1位 Greater Bay Technology(巨湾技研)(資金調達額1億5,000万ドル)
シリーズAの調達で調達額が大きかったのは中国でEVバッテリー及び充電/蓄電システムを開発するGreater Bay Technology(巨湾技研)です。地球温暖化対策としてEVの普及が急速に進みつつある中、バッテリーに対する需要は強まっており、中国の大手車メーカー広州汽車集団(GAC)からスピンオフする形で設立した同社は2年弱でユニコーンとなりました。
同社は急速充電が可能なリチウムイオン電池を開発しており、最大880Vの電圧プラットフォームのもとで、通常のバッテリーと同等のスピードで充電することができ、最新のバッテリーに関しては0%から80%まで8分で充電することができます。同社バッテリーは広州汽車のAIONに搭載されています。
EV販売データを扱うEV VOLUMES(※3)によると、2021年の世界でのEV(BEV&PHEV)の販売は675万台にのぼり、2020年対比で+108%以上の成長となりました。その中でも中国は約340万台(約50%)を販売しており、群を抜いた販売実績となっています。バッテリー容量ベースではBEV・PHEV・FCEVで合計297 GWhのバッテリー容量が搭載されており(2020年比+113%)、主要なバッテリーメーカーはCATL:81.9GWh(全体の27.5%)、LG:71.6GWh(同24.1%)、パナソニック:39.1GWh(同13.2%)となっています。
こうした成長著しいマーケットの中で、巨湾技研は生産能力を拡大していく予定です。2023年には8GWhのバッテリーパッケージ(EV12万台分)を生産可能な工場を新設し、2025年までに生産能力を120GWhまで拡大する計画を立てています。
シリーズA第2位 Clozd(資金調達額5,200万ドル)
シリーズAで5,200万ドルを調達したのは米国の営業支援ソフトウェアを提供するClozdです。Clozdは顧客の法人が営業の勝敗分析、すなわち過去の取引を調査し、なぜセールスが勝敗に至ったのかを評価するプロセスを実施するためのサービスを提供しています。2019年のアクセンチュアのレポート(※4)によると、勝敗分析を実施した企業は営業の勝率を18%挙げることができたという一方で、勝敗分析を実施している企業は半数以下しかない現状があります。
同社のプラットフォーム上では、CRMシステムと同期することで自動的に勝敗を記録し、適切な相手を抽出してフィードバックを獲得することができます。現在175以上の法人顧客を有する同社の2021年の収益は前年比129%の高い成長を記録しており、売上総利益率は75%とSaaS企業として遜色のない水準に達しており、毎年黒字・キャッシュフロープラスを保っているとのことです。(※5)
シリーズB第1位 Firework(資金調達額1億5,000万ドル)
シリーズB1社目は、小売業者向けにライブストリーミングツールを提供するSaaS企業、Fireworkです。以前はショート動画アプリを提供する企業でしたが、現在はB2B企業として、顧客が自社サイトにショート動画を配信したり、動画からシームレスな購入体験を提供できるようなソリューションを提供しています。また、Fireworkを利用すると、Instagram、TikTok、LINE、YouTube、Facebook、Twitterといった主要なソーシャルメディアに同時に配信することができます。
ライブコマースは中国を起点に成長してきました。中国のライブコマース市場は2020年には1,710億ドルに達したと推測され、パンデミックで勢いをまして2022年には4,230億ドルに到達すると想定されています(※6)。他方、米国では2020年は60億ドルに過ぎず、2022年も170億ドルと想定されており(※7)、中国にくらべても成長のポテンシャルは大きいと考えられます。
シリーズB第2位 FINN(資金調達額1億1,000万ドル)
シリーズBで1億1,000万ドルを調達したFINNは欧州及び米国でEVを含む自動車のサブスクリプションサービスを提供しています。グローバルの自動車のサブスクリプション市場は2020年は41億ドル規模でしたが、2025年には112.5億ドル、2030年には317.3億ドル規模に上るとされています(※8)。サブスクリプションサービスは、スタートアップだけでなく、トヨタ自動車傘下のKINTOなど自動車メーカー自身も提供するケースがあります。
FINNのプランは保険やメンテナンスも内包されており、6か月または12か月でのサブスクリプションが可能です。同社は2022 年初めに米国で発売したばかりですが、同時点でドイツでの車両は合計 1 万台に達していました。年末までに全世界で3万台を目指すとしています(※9)。
FINNはBMW、テスラ、フォルクスワーゲン、GMなど、世界の主要自動車メーカーと直接OEM提携を行っており、現在取り扱う車両の1/3が完全なEVとなっています。保有から利用への流れに加え、地球温暖化対策として電気自動車に対する需要は高まっており、同じくサブスクで電気自動車を提供する英国のOntoやノルウェーのimoveは急激な成長を見せています。Ontoは昨年7月に株式・債券あわせて1億7,500万ドルをシリーズBで調達しており、2021年には新たな電気自動車を2020年の5倍超となる6,000台導入したといいます。imoveは2021年にサブスクを開始し、同年7月にシリーズAで2,230万ドルを調達しています。
ラウンド別の主要案件は下記のとおりです。
※1
https://www.globenewswire.com/en/news-release/2022/05/17/2444981/0/en/Space-Mining-Market-Worth-4200-Million-at-19-98-CAGR-by-2022-2030-Ongoing-and-Impending-Space-Mining-Missions-to-Fuel-Market-Growth-Says-The-Brainy-Insights.html
※2
https://techcrunch.com/2022/05/23/sylndr-a-used-car-retailer-raises-12-6m-pre-seed-to-disrupt-egypts-automotive-market/
※3
https://www.ev-volumes.com/dcnews/
※4
https://www.accenture.com/_acnmedia/pdf-106/accenture-strategy-trust-me-sales-july2019-pov.pdf
※5
https://techcrunch.com/2022/05/25/clozd-nabs-52m-to-help-sales-teams-analyze-wins-and-losses/
※6
https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-digital/our-insights/its-showtime-how-live-commerce-is-transforming-the-shopping-experience
※7
https://www.retailtouchpoints.com/topics/digital-commerce/livestreaming-update-coresight-debunks-5-common-myths
※8
https://www.precedenceresearch.com/vehicle-subscription-market
※9
https://techcrunch.com/2022/05/25/finn-raises-110m-to-expand-car-subscription-platform-in-u-s-germany/