株式会社ハリイ

脱毛症や抗がん剤治療の副作用で髪を失った人のための医療用ウィッグ「スポーツウィッグ®」を開発・製造・販売する株式会社ハリイは、寺田倉庫およびグリーンコアを引受先とした資金調達を実施した。今回の調達により累計調達額は1億3500万円となる。調達資金を量産体制構築に投資するとともに、がん治療を行う医療機関との連携を拡大し、より多くの患者に向けてウィッグを提供していく構えだ。
同社は吉祥寺に自社サロンを構え、オーダーメイド・既製品のウィッグを販売するほか、大阪国際がんセンターや東海大学医学部付属八王子病院などのがん専門医療機関の病院内催事や定期的なウィッグ相談会をタッチポイントとして患者へのウィッグの提案を行っている。また、医療美容師の育成・認定を行う一般社団法人ランブス医療美容認定協会と連携し、同協会を通じた一般美容院への卸販売も進める。
医療用ウィッグをめぐっては、がん治療における外見ケア(アピアランスケア)への関心が高まっている。国立がん研究センターの統計によると、国内の年間新規がん患者数は98.9万人。厚生労働省によると、がん患者の約30%が化学療法を受け、そのうち約70%が副作用として脱毛を経験する。これらを総合すると、抗がん剤治療により新たに脱毛を経験する人は、年間約20.7万人にのぼると推計される。
2018年に国立がん研究センター等が約1000人のがん患者に対して行った調査では、治療にともなう外見変化の中でも、脱毛の苦痛レベルが一番高いというデータが出ている。「ウィッグは単なる美容アイテムではなく、患者さんのQOLを支える医療的支援ツール。一定以上の運動を行うことで乳がんの死亡リスクを抑えることができるという研究もあり、患者さんのQOLを保ち、運動を阻害しないことがとても重要」と、代表取締役社長の池野順子氏は医療的支援ツールとしてのウィッグの重要性を説明する。
池野氏によると、ウィッグ市場には既存の大手メーカーが存在するが、従来の医療用ウィッグの多くは「自然に見えること」を重視した設計で、スポーツに適したウィッグは国内には見られなかったという。「炎天下で裏地付きの毛皮の帽子をかぶって運動しようとはならないが、既存のウィッグはその状態に近い」と同氏は話す。蒸れや重さに加え、ウィッグを頭部に固定する手段は後頭部のフックや両面テープのみで、ずれやすさや頭部への締め付けなどの問題が残っていた。

ハリイは、三井化学が開発した特殊樹脂素材「HUMOFIT」を顔まわりに使用し、接着剤なしで頭部にフィットする構造を実現。ベースネットには無縫製3Dニットを採用し、縫い目をなくすことで軽量化と通気性を高めている。この仕様に関する特許を1件取得済みで、現在追加申請中だ。2025年5月から完全オーダーメイドによる販売を本格開始し、同年9月には医療用ウィッグの品質基準「JIS S 9623」への適合を第三者機関で確認した。

同社はウィッグと合わせて、インナーキャップも製造・販売している。肌面に純度99.9%の銀メッキ糸を使用しており、高い熱伝導性を持つ銀の特性を活かして、冷却ジェルパッドとの組み合わせで頭部を効率よく冷やすことができる。また高い抗菌・防臭性により、通常のインナーキャップと比べて洗濯頻度を大幅に下げられる点が利便性向上や耐久性向上につながっているという。

池野氏自身は、ファブリカ(現ラコステ・ジャパン)、アディダス、ゴールドウインといったスポーツウェアメーカーで商品企画に長年携わったのち、2018年に汎発性脱毛症を患ったことをきっかけに、快適にスポーツができるウィッグの開発を志す。大手ウィッグメーカーのバックヤードでアルバイト勤務し、ウィッグ製作の流れを学んだ後、起業支援プログラムがある富山県に移住。スポーツウェア開発で培った素材・構造の知見をウィッグに応用し、開発を続けながら2023年2月にハリイを設立した。
今回の調達資金の主な用途は、量産体制の確立だ。現状ではオーダーメイドウィッグの製造・納品に3〜4ヶ月を要しているが、同社は専用製造機械を開発・導入することでこのリードタイムを短縮し、来年の量産開始を狙う。同時に、全国のがん診療連携拠点病院を通した販売チャネル拡充も進める計画だ。
近年では自治体によるウィッグ購入補助も広がっており、一般社団法人チャーミングケアの調査によると、2025年度時点で何らかのアピアランスケア支援を行う市区町村は全国の76%に上り、2022年度と比較し約2倍に増加している。同社は患者がこの購入補助制度を活用しやすい料金設計を目指し、サブスクの提供も検討しているという。
長期的には、医療従事者や患者との関係を活かし、乳がん術後向けのブラジャーや着圧ウェアなど医療関連アパレルへの事業拡張も視野に入れている。M&Aも念頭に置き、アピアランスケアと親和性の高い美容・ライフスタイル企業との連携により、アピアランスケア全般を手がける企業として成長していく構えだ。










