菅政権が日本の目標として掲げた「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、政府は2021年6月にグリーン成長戦略を発表した。本レポートでは、グリーン成長戦略で成長が期待される14の重点分野から、家庭・オフィス関連産業に分類される3分野で事業を展開する企業をスタートアップ中心に紹介する。
日本の部門別CO2排出量(電気・熱配分前)では、家庭・業務部門が占める割合は10%程度とそれほど大きくない。ただ、我々の生活に直結している点で同分野でのCO2削減の取り組みは可視化されやすい。
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1-1 住宅・建築物産業
グリーン成長戦略の中では、建築物の省エネの強化により、ゼロエネルギー化の実現や光熱費の低減を目指すとしている。
例えば、消費エネルギーよりも生産エネルギーが多いZEH(Zero Energy House)は注文戸建の2割とエネルギー効率化の余地が残されている。本分野では、住宅・建築物関連の省エネや創エネ、断熱に関する企業について、6カテゴリーに分け紹介する。
HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)
HEMSカテゴリーには、国内企業を6社(内上場子会社1社)、海外企業を5社分類している。
HEMSとは、センサーや制御機器などを使用して、住宅のエネルギー使用状況を監視・制御するシステムである。HEMSの導入により、省エネ効果、生活環境の快適性、災害時の安全性などの向上が期待できる。
世界のHEMS市場規模は、2030年には約126億米ドルと2022年比約4倍になると予想されている※1。一方、国内の市場規模は、2035年度には110億円と2022年比約1.5倍にとどまる※2。日本の成長率が低い理由として、環境問題への意識が広まっていない点や、初期費用のハードル、IoT家電の活用の低さなどが挙げられる。政府は、2030年までに全世帯へのHEMS導入を目標としており※3、さらなる導入支援策や周知が必要となる。
国内での初期導入のハードルを下げる取り組みとして、Natureは、プラグに差し込むだけで家庭内の電力消費や発電・蓄電量をスマホでモニタリングし最適化できる「Remo E」を展開する。また、アクセルシステムなど、スマートホームシステムの運営の一部としてHEMSを展開するケースも見られる。
ヨーロッパでは、家庭における環境にやさしい電力消費への意識が高く、関連スタートアップが多く存在する。さらにウクライナ危機によるエネルギー価格の高騰の影響が大きかったこともあり、光熱費をいかに節約するかに関心が高まっている。
例えば、ドイツのTadoは、住居の温度管理を行うスマートデバイスの開発を行っており、必要な時にだけ暖房を稼働させる仕組みを構築している。これにより、平均22%の暖房費節約になるという。ノルウェー発のTibberは、電力料金の推移をリアルタイムで確認し、電気使用量を調整するプラットフォームを構築して節約に貢献している。
BEMS(ビルディング・エナジー・マネジメント・システム)
BEMSカテゴリーには、国内6社、海外3社(内上場企業1社)を分類している。
BEMSとは、商業施設やビルのエネルギー使用状況を監視・制御するシステムである。世界のBEMSの市場規模は、2021年に52億米ドル、2027年には106.4億米ドルで13%の年平均成長率(CAGR)になると予想される※4。
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出展
※1 GlobeNewswire 「Home Energy Management System (HEMS) Market」
※2 富士経済 「EMSと関連システム・機器、サービスの国内市場を調査」
※3 資源エネルギー庁 「長期エネルギー需給見通し関連資料」
※4 GlobeNewswire 「Global Building Energy Management System Market Report to 2027」