【独自調査】DXで業界を底上げする建設スタートアップの動向

【独自調査】DXで業界を底上げする建設スタートアップの動向

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谷口 毅


政策による強力なDX化の後押しが建設スタートアップに事業機会をもたらしている。政府は、DX化を通じた生産性向上を促しており、国土交通省が推進するi-Construction(建設現場へのICTの全面的な活用などの施策導入)でその成果が出始めている。

本レポートで取り上げたスタートアップのなかで、最も評価額が高いアンドパッドは、i-Construction大賞を受賞している。DX化を加速しうる政策が直近も続く。2023年には、小規模を除く全ての公共工事におけるBIM/CIM(建設工程における3Dモデル導入)原則化、2024年には、残業規制の施行が予定されている。

今回は、建設業界の国内スタートアップについて考察していく。

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国内建設市場の動向

建設投資は、1992年度の84兆円をピークに減少傾向が続き、2010年度にはピーク時の50%程度にまで減少した。その後、東日本大震災の復興需要や民間投資の回復により増加傾向となっている※1。東京オリンピックで建設需要がピークを迎えるという見方も一部あったものの、その予測に反して市場は緩やかな拡大が続いている。

背景には、​①首都圏を中心とした再開発やリニア中央新幹線、大阪万博など大型のプロジェクト実施、②製造業の国内回帰による設備投資、③老朽化したインフラの修繕や災害対策のための補強工事の需要増加があげられる。一方で、より高成長の市場を開拓するために、ゼネコン各社は不動産開発や洋上風力発電、インフラ運営などの途上国を中心とした海外展開を加速している※2

建設投資は緩やかに拡大しているため、今後、人材不足は一層大きな問題となりうる。就業者数は、1997年の685万人をピークとして減少が続いており、2022年はピーク時比70%の479万人となった。55歳以上の人材が34%と高いが、29歳以下の若年層は11%と低く、全産業と比較しても高齢化が顕著な業界である※3

若年層にとって魅力的な業界にするためには、賃金や労働環境の一層の改善が求められる。建設業の賃金は過去5年で上昇しており、2021年の平均年間給与額は520万円と、全産業と比較して17万円高い※4。ただ、労働時間が全産業よりも年間で110時間以上も長いことや専門技術が求められることを加味すると、改善余地はありそうだ。

国内建設DX

建設テック市場は、2022年度には約275億円となり、前年比26%増となった※5。特に、施工管理、文書・写真・図面管理、建設業向けERP(基幹システム)、マッチングサービス分野が好調だった。

アナログな情報管理が課題とされていたバックオフィス業務の改善から始まったDX化が、職人のスマートフォンの保有普及により、施工現場でも加速するなど、その対象範囲が広がりを見せている。

労働時間の上限規制(2024年4月施行予定)が、DX化の一層の推進に繋がる可能性が高い。これまでは、特別条項付き36協定を結ぶことにより労働時間の上限を引き上げることが可能であった。しかし、他業界向けの法改正から5年の猶予を経て、2024年には建設業界でも労働基準法の法改正が適用されることとなり、違反した企業は罰則を科される可能性がある。

建設DXの中では、建築施工の品質管理領域で成功している企業が多い。2021年に上場したスパイダープラス、本カオスマップでも紹介しているアンドパッド、フォトラクションなどがあげられる。品質管理は、コストに直結するため、顧客もDX化を受け入れやすいと思われる。

一方、DX化が進んでいないニッチな領域で大手顧客を獲得している未上場企業も存在する。例えば、建設設備領域のCADソフトウェアを展開するダイテック(売上139億円)が挙げられる。同社の営業利益率は、70%弱であり、ニッチな領域を攻める重要性を示している。

また、建設DXの複数のニッチ領域で製品を立ち上げる会社もある。例えば、2023年3月に上場したArentは、鉄筋コンクリートの配筋設計プロセスを自動化する「LightningBIM」や、プラント業界に特化したCADシステム「Plantstream」を開発している。

海外の建設市場との比較

日本では未だユニコーン企業はない一方、海外では、米・中・印を中心にユニコーンが多く誕生している。海外ユニコーンは、主に2つのタイプに分かれる。

一つ目は、市場が大きく、DXへの顧客意識も高い国で成長している企業群である。例えば、インドで建設資材のB2Bオンラインマッチングサービスを展開するInfra.Marketや、米国で建設機器のレンタル・売買仲介を展開するEquipmentShareがある。

二つ目は、革新的な事業で業界に大きな影響を与えている企業群である。TeslaのCEOであるElon Musk氏が代表を務める地下交通網の建設を行うThe Boring Companyや、建設現場での廃棄物をほぼゼロにする新しい建築方法を開発するカナダのNexiiなどがあげられる※6

日本と海外では業界の仕組みが大きく異なる。例えば、米国では、日本でいうゼネコンという概念がない(厳密には、ゼネコン自体は存在するものの、日本のような大規模な企業ではない)。大型建設プロジェクトにおいて、日本ではゼネコンが設計や施工を一度すべて請け負い、それを下請会社に振り分けるのが一般的だが、米国では設計と施工の専門業者がそれぞれ分かれており、別々に請け負うことが多い。

また、日本では、企業別の労働組合が存在する一方、米国の建設作業員のほとんどが職能別で全国組織の労働組合に所属している。米国の建設企業は、職能別の労働組合との良好な関係を構築することを重視しており、米国の労働環境は日本ほど過酷な状況ではないとされている。工期や企業の都合よりも労働者の権利が優先されることも多く、週休2日制で1週間の労働時間も40時間以内に保つことが基本とされている。

日本は少数の超大型企業と多数の中小企業という市場構図であり、大手ゼネコンの下請けの中小企業で働く多くの人材の労働環境が、それぞれの現場任せになっている。この日本独自の課題を解決することにスタートアップの事業活動意義があるように思われる。

カオスマップと注目企業

本レポートでは、スタートアップデータベース「KEPPLE DB」の情報をもとに建設関連の国内企業107社を15カテゴリーに分類を行った(非スタートアップ、建設以外を主事業としている企業は除く)。

今回は、建設工事を行う企業だけでなく、建設工事の過程で必要となるサービスや、資材、機材、人材関連の事業を含む、建設業界に特化した様々なスタートアップを取り上げている。以下、各カテゴリーを紹介する。
カオスマップ
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リフォーム施工

リフォーム施工には12社分類し、最も多いカテゴリーとなった。リフォーム関連の企業が多い理由として、日本で既存住宅の活用が求められている背景がある。

日本の既存住宅数は約6200万戸とされ、これは総世帯数の約5400万世帯を上回る数字である※7。空き家数は846万戸にのぼり、空き家率は約14%である※8。2033年には空き家率が25%になる可能性も指摘されている※9

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新卒で資産運用会社のFirst Sentier Investorsに入社し、アナリストとしてアジア・日本の株式の分析を行う。その後、リクルートでプロダクトマネージャーを経験。2022年にケップル入社。現在はデータベース部門を管掌、および海外事業部門を兼務。スタートアップデータ拡充のための企画、分析に加え、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信を行う。

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