更年期ケアは次のフェムテック市場になるか──YStoryが個人向け支援と法人展開の両輪で挑む

更年期ケアは次のフェムテック市場になるか──YStoryが個人向け支援と法人展開の両輪で挑む

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更年期のセルフケアを支援するアプリ「JoyHer」を手がける株式会社YStoryが、法人向けサービス「JoyHer企業版」をローンチするとともに、プレシリーズAラウンドの資金調達を実施した。引受先には京都大学イノベーションキャピタルをはじめ、あすか製薬CVC、京都キャピタルパートナーズ、栖峰投資ワークス、NEXTBLUE、既存投資家のANRIが名を連ねる。調達資金は、プロダクト開発の高度化やデータ基盤の強化、採用拡大を通じた法人向け事業の成長に充てるとしている。

JoyHer のUI: 画面上で症状の有無や重さ、薬の服用記録などを入力し、ログを取ることができる
JoyHer のUI: 画面上で症状の有無や重さ、薬の服用記録などを入力し、ログを取ることができる

同社は2023年設立のヘルステック企業で、35歳以上の女性向けに更年期のセルフケアを支援するアプリ「JoyHer」を運営する。ホットフラッシュや身体の痛みなど200〜300種類にのぼる更年期症状に対し、AI技術を活用した行動変容プログラムを提供。「症状の個人差が大きく、変動しやすい点が更年期の特徴。京都大学との共同研究をもとにデータドリブンで(プログラムを)提供しているのが強み」と代表取締役のシージュエン氏は語る。

代表取締役はユエンショウ氏とシージュエン氏の2名が共同で務める。ユエンショウ氏は京都大学でMBAを取得後、IBMでデータサイエンティストとして勤務し、その後デロイトやアーサー・D・リトルでヘルスケア領域のコンサルタントとして経験を積んだ。シージュエン氏は南洋理工大学(シンガポール)で数学の博士号を取得。同じ職場で出会い、女性の健康課題へのソリューションの必要性に意気投合したことが創業のきっかけだ。「生理や妊娠、更年期の話をするなかで、『ソリューションがないなら作ろう』となった」とユエンショウ氏は振り返る。

女性の更年期をめぐっては、社会的な認知の低さと適切なケアへのアクセス不足が構造的な課題として指摘されてきた。年間約46万人の女性が更年期を主因に離職している可能性があるとされ、経産省の試算では更年期症状による経済損失は年間約2兆円規模にのぼる。欧米では更年期を医療・福利厚生・デジタルヘルスの交差点として捉える動きが増えており、米Midi Healthなど更年期特化型のスタートアップへの投資も活発化している。国内ではフェムテック領域全体への関心が高まるなか、更年期に特化したデジタルヘルスサービスはまだ黎明期にあるようだ。

差別化要因として同社が挙げるのは、京都大学大学院 医学研究科 産婦人科学教室との共同研究によるエビデンスだ。先行研究として、2023年に更年期女性91名を対象とした単群前後比較試験を実施し、セルフケア支援アプリの使用期間において、SMI(簡略更年期指数)の有意な改善が認められたとしている。現在は規模を拡大し、更年期女性約400名を対象としたランダム化比較試験(RCT)を実施中だ。

(左)アプリでは、記事やエクササイズ動画など、女性の健康に関するコンテンツも配信。 (右)症状改善に向けたアクションプラン
(左)アプリでは、記事やエクササイズ動画など、女性の健康に関するコンテンツも配信。 (右)症状改善に向けたアクションプラン

今回の調達と合わせ、企業・健康保険組合向けの「JoyHer企業版」を正式ローンチした。大和総研との提携を通じた健康保険組合向け提供では、MAU継続率50%超、ユーザー満足度約8割、1〜3か月の利用で約8割のSMIスコア改善という実績を上げており、今後は個別企業への直接営業を本格化する。法人向けサービスはアプリ提供にとどまらず、導入前から人事部門と連携して組織内で更年期症状への理解を図るためのセミナーや社内報向けの動画コンテンツなどを一体で提供する。導入後は匿名性を担保した利用状況レポートで次の施策立案を支援するという。「更年期の課題は上司に話しづらく顕在化しにくい。人事部と一緒に企業文化そのものを変えていく必要がある」とユエンショウ氏は話す。

同社によると、すでに導入を進めている企業からは「採用コストが高いプロフェッショナル集団で、30代以降の女性比率もマネージャー層も多い。1人が辞める、あるいは体調不良になるとダメージが大きい」という声もあるという。重症者だけでなく予防的ケアも対象とし、女性全員が利用できる設計である点がニーズと合致した形だ。

個人向けアプリのダウンロード数は7万を超えており、同社はこのデータを製薬企業や消費財メーカーとの協業にも活用する方針。既存製品の40〜50代女性向けマーケティングや、新製品の市場テストなどにおける連携を想定している。「リアルワールドデータを日々収集しているプレイヤーは国内にほぼいない。データそのものの価値が高い」とユエンショウ氏は強調する。

「足元では、導入企業数を100社に増やすこと、一定の売上水準を達成することが次のラウンドに向けたマイルストーン」とユエンショウ氏は説明する。また、国内と並行して海外展開も進めていくという。米Mayo Clinicの更年期患者6000名・20年間の診療データを活用して米国向けのアルゴリズム開発を進行中で、次回ラウンド以降、海外版アプリのリリースを見据えている。

「サイエンティフィックベースで女性が『自分を愛する』ことをサポートしていくのが私たちの強み」「40代、50代になってようやく自分の時間を楽しめる時期に、更年期によってそれが影を潜めてしまうのは勿体ない。更年期を迎えても、女性がチャレンジし続けられる世界を作っていきたい」と、ユエンショウ氏とシージュエン氏は熱く語る。

更年期は女性に広く関わるテーマでありながら、「話しにくい」「プライベートな問題」という認識が根強く、キャリアや企業経営への影響が議論される機会は限られている。YStoryはその見えにくい課題を、エビデンスとデータで可視化し、個人向け支援と法人向け導入の両輪で事業化しようとしている。フェムテック市場のなかでも、更年期領域をどう産業化できるか。同社の次の成長局面は注目されそうだ。

※ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構が2021年に公表した推計による

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