近年、オープンイノベーションの重要性が高まる中、大手事業会社によるCVC設立などスタートアップ投資への取り組みが加速している。政府による「スタートアップ育成5か年計画」を中心とした政策や新型コロナウイルスの5類引き下げの影響もあり、全国各地でスタートアップ関連イベントが盛んに行われるようになってきた。
これらの動きに伴って、スタートアップ支援に今まで以上に本腰を入れて取り組む企業も増えている。住友不動産株式会社はその代表例だ。
同社は2023年1月に「グロースサポート事業」を立ち上げ、テナント企業とベンチャー企業をマッチングし、次世代ユニコーン企業の創出を後押しするイベントとして「虎ノ門サミット」を6回に渡り実施してきた。その集大成として、この10月24日には新宿住友ビル三角広場にて、「住友不動産ベンチャーサミット」を開催することを発表している。
コロナ禍で見えたスタートアップ支援の必然性
同社がスタートアップ支援を加速させた背景として、新型コロナウイルスの流行による働き方の変化があったという。
一部の大企業では在宅ワークが増えるとともにオフィスの縮小も行われてきたが、スタートアップ企業は、在宅ワークを併用しながらも、企業の成長スピードが早く、事業規模や人員の拡大を見込んでいたり、より創業期に近い企業は社員同士で膝を突き合わせて仕事をしたいといった需要があった。コロナ禍でも変わらずオフィスの維持・拡張が期待できたため、同社がスタートアップへの取り組みを強化するようになったのは必然であった。
グロースサポート事業部の部長を務め、同社のスタートアップ支援を推進する藤島 正織氏は「不動産業におけるDX化の遅れがコロナ禍によって顕著に現れ、スタートアップとの連携によって業務のDX化を推進していきたいと考えたのも理由の一つでした」とその背景を語る。
ビル事業とスタートアップビジネスの親和性
住友不動産の主力はビル事業だが、ビル事業とスタートアップ企業の成長は親和性が高いという。同社のビル事業は、土地の取得から開発、テナント誘致、管理・運営と、全ての段階で直接関わることを重視している。一見すると関わりがなさそうに思えるが、3つの点でスタートアップの成長を後押ししているという。
「1つ目はテナントを中心とした法人ネットワークに基づいたビジネスマッチングです。住友不動産のオフィスには1800社以上のテナントが入居しています。オフィスは企業にとって大事な要素の一つですし、当社ではテナントとの日常的なやり取りも管理会社に任せることなく自社で行なっているため、テナントとの距離がとても近くなります。
そうすると、ただの場所の貸し借りだけの関係ではなく、お互いの事業に寄り添った関係性になっていきます。『こういうスタートアップがいるんですが、御社の事業とこういう点で協業できるのでは』という話ができるのです。それでテナント事業も拡大して、オフィスをもっと借りてもらえれば、住友不動産としてもメリットになるので、私たちとしても積極的に動きます」(藤島氏)
同社では、テナント誘致も自社で行なっている。スタートアップから大企業まで、規模に関わらず幅広く接点を網羅しているという。
「オフィス移転はそう頻繁にあるものではなく、具体的な話になるまで時間がかかるため、オフィスそのものの話題だけでは、関係性を保つことが難しいのです。そこで、オフィス以外にもビジネスマッチングなど事業のお役に立てることがあれば、継続的な関係性の構築につながると考え取り組んでいます」(藤島氏)
ビジネスマッチングで報酬を得ていないが、間接的に住友不動産の事業そのもののメリットに繋がっているという考えだ。
スタートアップの成長を加速させるアセット
「2つ目は、イベント運営です。既存の法人ネットワークを利用して、主催イベントの運営も開始しました。住友不動産グループでは会議室やイベントホールを運営しており、種類も豊富にありますので、それらのアセットもぜひ有効活用いただきたいと考えています」
「3つ目は、企業の成長に合わせたオフィスをご提供できる点です。住友不動産独自の特徴の1つとして、東京都心において広範囲にオフィスを展開しており、その規模も大小さまざまです。事業規模や業種に合わせた幅広い選択肢をご用意していますので、スタートアップの成長速度に合わせてご利用いただくことが可能です。」(藤島氏)
同社は、小割りのインキュベーションオフィスも作り、虎ノ門に第1号をオープンしている。その後は、ベンチャーキャピタルと協力して、席単位から入居できるオフィスも渋谷や六本木で開始した。強みである都心の豊富なビル立地を活かし、今後もさらにさまざまなエリアに拠点を増やしていくことを計画している。
インキュベーションオフィス「グロース虎ノ門」
課題を払拭する事業立ち上げとイベント開催
同社はグロースサポート事業の立ち上げ以前にも、数年前からスタートアップの主要イベントへの協賛や自社の主催イベントも不定期で行ってきた。テナント企業にはスタートアップも多く、急成長する企業や上場に至った企業も生まれていた。しかし、スタートアップ支援を行っている企業としての認知が取れていないことに課題を感じていた。
「これまで以上に、もっと創業期に近いところから、積極的にスタートアップを誘致したいと考え、グロースサポート事業を立ち上げました。主催イベントの規模を拡大し、より多くの企業との接点を持ち続けるために、虎ノ門サミットを毎月開催し、毎回テーマを変えながら、この半年間で6回、計60社のピッチが行われてきました。
取り組みの甲斐あってか、回を重ねるにつれ、虎ノ門サミットをきっかけに資金調達を検討しているといった声や協業に至った等の声も聞こえるようになりました。そして、今回の『住友不動産ベンチャーサミット』という大規模なイベントの開催につながっています」(藤島氏)
虎ノ門サミット 開催時の様子
スタートアップファーストで新たな出会いの架け橋に
従来、スタートアップの大規模イベントは地方で行われることが多いが、今回の住友不動産ベンチャーサミットは、アクセスのしやすさを重視し、東京・新宿で開催される。
メインコンテンツであるピッチコンテストには、16社の枠に130社以上の企業がエントリー。審査員も、SBIインベストメント副社長の後藤健氏をはじめとした錚々たる顔ぶれとなっている。その他、スタートアップエコシステムを牽引するパネリストたちによるトークセッションや、100社以上が出展する展示ブースなどを予定している。
また、参加企業の質も注目ポイントだと藤島氏は語る。「普段出会えない人と会えるというのも見どころです。虎ノ門サミットでも同様の特徴だったのですが、スタートアップ関連のイベントによく参加する企業だけではなく、普段そのようなイベントには参加しない企業も住友不動産との縁で参加するケースがあり、ご好評いただいております。大企業などの事業会社、ベンチャーキャピタル、スタートアップと満遍なく参加いただきます」
さらに、イベントの実施環境にもスタートアップへ配慮した工夫が施されている。「業務を止めない、即事業に繋げる」ということを目指し、多忙なスタートアップに向けて会場には無料のワーキングスペースが用意されている。商談ブースも設置され、専用サイトでマッチングした企業と即商談ができるような環境が整っている。
「お越しいただきやすい新宿での開催ですので、ぜひお気軽にご参加いただけたらと思います。日常的な情報交換も大歓迎です。多くの皆様のご来場をお待ちしております」(藤島氏)
住友不動産のスタートアップ支援に対する本気度がうかがえるイベントには、多くの注目が集まりそうだ。
会場となる新宿住友ビル三角広場
<イベント概要>
日 時:2023年10月24日(火)13: 00 ~ 20:00(予定)
会 場:新宿住友ビル三角広場
主 催:住友不動産株式会社
参加方法:完全予約制
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