株式会社エンドファイト

「社会課題の解決」と「持続可能な成長」の両立に挑むインパクトスタートアップのイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2026」が、2026年10月7日、東京都中央区で開催された。主催は一般社団法人インパクトスタートアップ協会(ISA)。
3回目の開催となる今年のテーマは「公共の精神と破壊的イノベーション」。スタートアップや投資家、大企業、政府・自治体関係者らが一堂に会し、全19セッションと2つのピッチイベントに産学官のリーダーやインパクトスタートアップの経営者など100名超が登壇した。会場ではインパクトスタートアップ31社がブースを出展した。
本稿では、当日の様子をレポートする。
岸田元首相「スタートアップ政策はこれからが正念場」
オープニングでは、元内閣総理大臣で衆議院議員の岸田 文雄氏が特別ゲストとして登壇し、基調講演を行った。
岸田氏は首相在任中の2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。その後、スタートアップの数は約1万6000社から約2万7000社に増え、地方発のスタートアップも次々と生まれていると成果を語った。
一方で「今後は、ユニコーン企業と呼ばれる世界的な高成長企業を次々と生み出していかなければならない」と課題を指摘。出口の多様化や海外展開の支援を進める考えを示した。
特にディープテックスタートアップについては、収益化までに長い期間と大きな資金を要するとして、初期の需要を生むために防衛調達をはじめとする政府調達の活用が重要だと述べた。SBIR制度※の抜本的な強化や、本格的な調達につなげるための試験導入の枠組みづくりを推進するとした。
能登半島地震の被災地で、断水した地域をスタートアップのシャワーや手洗い機が支えていた光景にも触れ、社会課題の解決と新たな市場の創出を両立させる役割に期待を寄せた。
「スタートアップ政策は一朝一夕で完結するものではなく、まさにこれからが正念場だ」。岸田氏はこう強調し、講演を締めくくった。
※SBIR制度:日本版SBIR(Small/Startup Business Innovation Research)制度。研究開発型スタートアップなどの研究開発を促し、その成果の社会実装を後押しする制度で、内閣府が司令塔となって関係省庁が横断的に運用している。米国の制度を参考に1999年に始まり、2021年度にイノベーション創出を目的とする制度へと抜本的に改正された。
Impact Startup Pitch、大賞はエンドファイト オーディエンス賞はPeds3
ISA主催のピッチイベント「Impact Startup Pitch」には、インパクトスタートアップ10社が登壇した。教育・子育て、一次産業、ヘルスケア、福祉、食、環境・エネルギー、宇宙、建設など、各社が取り組む社会課題と事業の現在地を発表した。
登壇企業
株式会社エンドファイト(代表取締役 風岡 俊希氏)

茨城大学・筑波大学発のスタートアップ。森林の土壌から選抜した、植物の根に共生する微生物「DSE」の大規模ライブラリーを持ち、農作物の収量向上や都市緑化、土壌・森林再生に生かす技術を事業会社や自治体に提供する。現在は25種類以上の植物で取り組みを進め、事業会社50社近くと連携している。
インパクトスタートアップピッチ大賞とみずほ賞を受賞した。長年蓄積してきた微生物のデータを基に、世界市場への展開を目指す点が評価された。
株式会社天地人(代表取締役社長CEO 櫻庭 康人氏)

JAXA認定の宇宙ベンチャー。衛星データと過去の漏水履歴などをAIで解析し、水道管の漏水リスクを約100m四方ごとに評価するシステム「天地人コンパス 宇宙水道局」を提供する。同社によると、東京都や札幌市など100以上の自治体が採用し、1件あたりの漏水調査費用を79%削減した実績もあるという。フランスのシャルトル市でも導入されている。
デロイト トーマツ賞、東海東京証券賞、三井住友フィナンシャルグループ賞の3つを受賞した。
株式会社CareFran(代表取締役 久保田 洋介氏)

「介護をもっと軽やかに」をミッションに、居宅介護支援事業所(ケアマネジャーの事業所)を自社で運営しながら、業務を効率化するAIエージェントを開発する。ケアマネジャーは書類作成などの負担から減少が続いているという。同社のAIエージェントは、面談の音声などから書類の下書きを自動で作成する。同社によると、1人あたりの書類作成時間は220分程度から70分程度に短縮したという。
ONESTRUCTION株式会社(代表取締役CEO 西岡 大穂氏)

鳥取市に本社を置く建設テックスタートアップ。国際標準に基づく「openBIM」を軸に、建設データの活用基盤やAIソリューションを開発する。国土交通省などと連携した産学官のプロジェクトにも参画している。ピッチでは、2次元の図面から3Dモデルを自動で生成するデモを披露した。直近1年で約10カ国で技術を発表し、インドやエジプトでの展開に力を入れる。
野村賞と三井住友信託銀行賞を受賞した。
株式会社Josan-she's(代表取締役CEO 渡邊 愛子氏)

助産師に特化したスポットワークや、低月齢の赤ちゃん向けベビーシッターサービス、産後ケア施設の運営などを行う。渡邊氏によると、助産師人材の約6割は現場を離れ、潜在化しているという。助産師が柔軟に働ける場をつくり、産後家庭へのサポート不足の解消を目指す。登録助産師は4500名を超え、近く福岡県で産後ケア施設を開設する予定だ。
株式会社ライスレジン(代表取締役COO 奥田 真司氏)

古米や破砕米、保管期限が切れた備蓄米など、食用に適さない米を原料にバイオマスプラスチック「ライスレジン」を製造する。石油系樹脂と比べ、製造時のCO2排出量を4割以上削減するという。福島県浪江町に本社工場を構え、年間3000トンの生産能力を持つ。地域の米を地域の指定ごみ袋にする取り組みは、全国15自治体に広がっている。
株式会社Peds3(代表取締役社長 千先 園子氏)

小児科専門医が立ち上げた、国立成育医療研究センター発のスタートアップ。子ども向けのデジタル治療アプリ(SaMD)の開発や、オンライン診療プラットフォームの運営に取り組む。発達障害や慢性疾患などを対象とし、第1弾として、字を読むことに困難がある学習障害「ディスレクシア」に取り組み、子どもの音声を1音ずつ認識するAIでスクリーニングと学習支援をデジタル化した。鳥取県や東京都の事業に採択されている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券賞とオーディエンス賞を受賞した。
フェルメクテス株式会社(代表取締役CEO 大橋 由明氏)

山形県鶴岡市に拠点を置く慶應義塾大学発のフードテック企業。納豆菌を大量培養して粉末化した、タンパク質含有量70%以上の食品「kin-pun(きんぷん)」を開発する。大手ラーメンチェーンと納豆菌の粉末を練り込んだラーメンを開発するなど、商品化を進めている。量産化に向けて自社工場の設立や生産技術の開発を進め、価格の低減を目指す。
東京建物YNK賞を受賞した。
株式会社GiftX(代表取締役 飯髙 悠太氏)

受け取った人が別の商品に選び直せるソーシャルギフト「GIFTFUL」を運営する。飯髙氏によると、国内のギフト市場10兆円以上のうち、2.3兆円分が好みに合わず捨てられているという。選び直しの割合は法人向けで73%に上る。今年1月には法人向けプラットフォームをリリースした。手渡しできる紙のカードも作れるため、お中元や手土産などにも利用が広がっているという。
株式会社グッドバトン(代表取締役・産婦人科医 園田 正樹氏)

病児保育の検索・予約サービス「あずかるこちゃん」を開発・運営する。電話予約に代わり、保護者はLINEやウェブから空き状況の確認と予約ができる。同社によると、導入決定分を含めて51市町村・454施設に利用が広がっているという。産後ケアの申請・予約のデジタル化にも取り組み、2029年度には両サービスを47都道府県に広げる計画だ。
産学官のリーダーが議論、問われる官民の連携
当日は、各界のリーダーが登壇する「Leaders Session」や、Forbes JAPAN提供のピッチイベント「Forbes Impact Challenge of the Year 2026」も開催された。
病児保育、介護、水道インフラ、食料、建設。Impact Startup Pitchに登壇した10社の多くは、自治体や公共サービスと接点を持つ領域で事業を展開する。社会課題の解決策を生み出すだけでなく、それを社会の隅々まで届けられるか。インパクトスタートアップと、それを支える官民の連携が問われている。

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